2007年10月03日

社会変革をもたらす米国財団

米国の財団の歴史を紐解くと、その出現は20世紀初めといえるが、創設者はいわずと知れた大富豪、時には弱者の敵とも目された大資本家たちである。皮肉といえば皮肉、当然といえば当然なのだが、いずれにしても、アンドリュー・カーネギーとジョン・ロックフェラー1世の二大資本家を筆頭に、彼らは蓄積された富を後世まで世のため人のために生かすことを考えた。ビジネス界のリーダーの存在なくして、「フィランソロピー」は成り立たなかったのである。
では「フィランソロピー」とは何か。「チャリティ」とはどう違うのか。 財団が担うフィランソロピーの性質を的確にまとめた文言が、元ケロッグ財団プログラム・ディレクター、Joel J.Orozの著書(「Insider’s Guide to Grantmaking」、邦訳本「助成という仕事:社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割」)の中にある。それによると、財団の規模・形態は多様ながら、その大多数が共有しているミッションとして、以下の4点が挙げられている。

1. 財団はチャリティ(目前のニーズでの対応)ではなくフィランソロピー(根本的原因への取り組み)に活動の焦点を絞るべきである。
2. 財団は進行中のプログラムより、新しく革新的なプログラムの支援を優先すべきである。
3. 財団は唯一の出資現になるより、資金獲得のための呼び水役に徹するべきである。
4. 財団は、既に評価が定着しているものより、よいアイデアを試し、それを本格的に始動させていくための実験的なプロジェクトを優先的に助成すべきである。

「財団って何?」あるいは「チャリティとフィランソロピーってどう違の?」といった疑問をそもそも持っている人にとって、この4点はかなり的確にその核心を言い当てているのではないかと思う。(注) 

こうしたミッションを意識しつつ、各財団はそれぞれのビジョンを持って事業への助成をしているわけだが、では、その試みにはどんなものがあるのだろうか。例えば、1960年代後半のアメリカにおける社会問題をひとことでいえば、「貧困」が挙げられる。この時期、フォード財団もカーネギー財団も、皆このテーマに関して試行錯誤と共に新しいプログラム助成に取り組んでいる。その中のひとつ、日本でもよく知られている子ども向けテレビ番組、『セサミストリート』の誕生には、これら大型財団が大きく関わっている。それは、特に、カーネギー財団の新たなプログラム展開のイニシアティブから始まった。後述するように、プロジェクトの成果や計画の妥当性については、さまざまな議論も巻き起こったが、少なくとも、学校教育外における新しい教育的手法としてパイロット事業であったこの番組放映は、その後、世界を渡り、日本でもすっかり馴染みの深い番組となったことは周知のとおりである。そこには、世の中にインパクトを与えるという確かな戦略とリスクも計算した挑戦があった。

1967年、カーネギー財団は、新理事長・アラン・パイファーのもと、貧困問題への取り組みを財団の新しいプログラムに取り入れることにした。67年といえば、いわば「抵抗」の年である。人種差別を背景とした黒人暴動の増加、そして反ベトナム戦争運動の高まりは、リベラルな中産階級の目を急激に社会問題へと向けることになった。
また同時に、この60年代後半から70年代にかけては、テレビの影響力というものに対して少なからず議論が起こっていた。当時のアメリカのテレビ界は商業的利益に支配され、ニュースレポート番組などが、クイズ番組やコメディ、西部劇に次々と取って代わられるのは珍しくなかったという。一方で、万人のコミュニケーション・ツールとしてのテレビの影響力は無視できないものとなっていく。

最終的に、テレビのツールとしての利点に目をつけ、質の高い教育番組を、エリートのみならず大衆にいきわたるものとして製作することに意欲を向ける財団スタッフおよび関係者が、財団をひとつのプログラム展開へと向かわせた。それまでも、高等教育分野でのプログラム展開をしていたカーネギー財団であったが、高等教育以外で、教育機会の不均衡の問題への取り組みのひとつとして始まったのが、『セサミストリート』である。まず、先だって、2つの先行研究が存在した。ひとつは、J.McVicker Huntが1961年に発表した“Intelligence and Experience”という論文で、I.Q.は極めて後天的なものというその説は、当時革命的な考え方として反響を呼んだ。また、1964年に発表されたBenjamin Bloomの”Stability and Change in Human Characteristics”は、人が成人時に持ち合わせる知能のほとんどは就学時に決まっている、と報告している。そうした背景があって、1969年のカーネギーの年次報告書には、貧困と教育機会の不均衡の問題の解消にもっとも寄与できる可能性があるアプローチとして、子どもの教育に取り組む動機を説明している。

その担当者となったのがLloyd Morrisettで、彼女は、上述のような60年代半ばまでの科学的調査結果に基づき、就学前の児童に対する教育の有無およびその質が、その後の学校教育ひいては人生の上で格差を生み出すということと、66年の統計で、全米で94%の3歳児、81%の4歳児、26%の5歳児が学校に入学しなかったことをうけ、いかにマスに対する就学前児童への教育提供を試みるかを考えた。そのとき、「テレビが将来的に大きな“教育者”となる」という仮説にたどり着いたのである。そこで、Channel 13のドキュメンタリー番組のプロデューサーであるJoan Cooneyにフィージビリティ調査を委託、結果、テレビが現在可能性のあるほかのどんな方法よりも幼児教育に適しているという結論が報告された。その結果、68年Children’s Television Workshop(CWT)が、カーネギーからの8,000,000ドルの助成金のほか、フォード財団の助成、政府からの補助金、そして多方面からの寄付を集めて設立された。Cooneyが理事長となり、彼女によってリクルートされたスタッフが終結して、69年11月に『セサミストリート』は初放映。調査会社の調べによると、放映2週間目にして2万戸の家庭で視聴された。70年には、6歳以下の子どもを持つ家庭の47%、72年には56%が視聴していたという。

もっとも、CWTにとって重要だったのは、単に視聴率だけではなく、番組を見た子どもたちの学習効果であった。そのため、教育専門家による外部評価チームを導入。そこで得られた結果とは以下のようなものであった。
1. 観れば観るほど学習する。
2. 番組の中で、最も興味を持たれたスキルが最も身についたスキルである。
3. 子ども自身が観ながら学べる。(大人が必ずしも教えたりする必要がない。)
4. 上記の効果に、年齢、性別、地域、社会的・経済的地位、どこで観たかとい環境の違いは関係ない。
この中で、特に着目されたのは4.の点であった。『セサミストリート』の内容を思い出せばわかることだが、人種、社会階層、性別等に関わらず、広範な視聴者に受容されることが、番組が何より意識したことだったからである。番組の制作は、教育者、心理学者、テレビプロデューサー、作家、音楽家、人形使い、広報担当者など、多岐に渡る分野の関係者によるコラボレーションで成り立っていたが、中核を成していた方針は、主にCooneyがカーネギーの助成を受けて行った初期のフィージビリティ・スタディに基づいていた。それはつまり、行動科学の知識を集結させた、理論ではなくオリエンテーション中心の性格が色濃く出たものであった。

批判ももちろんあった。例えば、番組は、初等教育を受ける準備段階として、学校で教わることを前提としており、学校で学べないことを教えるといった視点が足りない、とか、番組は、教育熱心な家庭であればあるほど観られる傾向にあるから、恵まれた家庭の子どもの学力がより伸びることで結果的に児童間の学力差を広げる、といった声まであった。しかし、現象としてそういう事実が現れたとしても、それらはむしろ想定内のアウトカム(波及的効果)の一部であり、期待された成果が出ていることが検証できる以上、プロジェクトの設定した主たる目的は達成されたと判断できるのであった。
74年にMorrisettは以下のように述べている。
“Sesame Street is not the answer to early education problems or to deficiencies in children’s television programming. It is one effort and a more successful one than we originally dreamed to use television to benefit children’s development.”
そして、このアーリー・ラーニングを切り口とした貧困と教育と平等の問題は、その後のカーネギーにとっても、学校教育の問題から社会・経済的改革を掲げたプログラムへの展開を促していき、公民権運動の理念とも連鎖しながら、さまざまな社会的な反響を起こしていく。その一方で、『セサミストリート』は世界120カ国以上で原語および現地語で放映されるようになっていく。各国での大衆教育のあり方に、何らかの布石を残しながら。その原点には、財団による、貧困の根を取り除くのだという信念とそのための新しい手段、知識、技術を結集する壮大な実験への賭けと投資があったのである。

貧困の解消、というときに、伝統的なチャリティなら寄付を集めて奨学金を出す、といった手法がまず考えられる。無論、それだって大々的に実施すれば、いわば「人」への将来への投資であって、重要である。ただし、社会的なインパクト、という観点からは、おそらく、すでに流行っている「症状」に対処するだけでなく、表面化していない「問題」の所在と原因を究明し、社会に知らしめることの方が中・長期的な取り組みである。特に、そのための制度や環境、社会的なしくみを整えることは、人も知識もお金も要する、財団が取り組むに相応しい仕事ということになる。財団は、持っている資産の大小に関わらず、限られた資金をもっとも効果的に使える方法を考え、探しているからだ。

こうしてみると、ふと立ち返れば、「社会起業家」の条件と財団のミッションには共通点がある。というよりも、アイデアと人と資金をつなぐ財団の役割には、そもそもアントレプレナー精神が溶け込んでいると読み取れる。民間財団は、先駆的・潜在的なチェンジメーカーが世の中で活躍するのを支援できると同時に、自身がそのnatureとしてチェンジメーカーたる所以を持っているのである。90年代以降、新興の財団も増え、プロジェクト支援をベースにする従来型の財団に加えて、組織の経営支援までに関与するベンチャー・フィランソロピーの登場もあるが、生い立ちや手法が何であろうと、託された財産を管理していくにあたって、脈々と受け継がれていくミッションとその財産が生み出せる価値の可能性に賭ける姿勢は、どの財団にも共通である。それは、とりもなおさず、お金に有形無形の価値をつけていく、人間の知恵と営みへの信頼そのものだといえないだろうか。財団は生まれながらにして、社会変革の担い手たるべくして存在している。米国財団の歴史を見るとそのことに改めて気づかされるのである。

(注)
ここでは、言葉の定義を議論するわけではないので割愛するが、「フィランソロピー」という言葉自体は主に米国で使われ、英国では、財団の活動も含めて、むしろ、チャリティと一般的に呼ばれることが定着している。

posted by CAC at 00:51| Comment(14) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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