2005年09月06日

■ "オールド・メディア" による社会起業支援 −PBSの特集番組「ザ・ニュー・ヒーローズ」−

大西たまき インディアナ大学フィランソロピー学科研究員

 G8サミット開催を前に「世界の貧困撲滅に対する理解を喚起しよう」とロック歌手ボブ・ゲルドフが企画した「ライブ8」のコンサートが近づいたある日、PBS(Public Broadcasting Service 全米公共テレビ放送)の元同僚から、「うちの会社が社会起業家の特集番組を放送するのよ」との連絡を受けた。「ニュー・ヒーローズ(The New Heroes)」という番組だ。アショカ(Ashoka)をはじめ他、様々な社会起業団体に支援してきたスコール財団(Skoll Foundation)からの助成(社会投資)をPBSのオレゴン局が受けていたことは、かなり前に聞いていた。一体何の企画に対してだろうと興味を持っていたが、この番組だったのだ。

 6月末から7月頭に2回に分けて放映された同番組では、日本でもよく知られるバングラデシュのグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス氏のほか、中東で就学前児童対象のプリ・スクールをチェーン展開するディーナ・アブデル・ワハブ氏(エジプト)、途上国にて手頃なヘルスケア商品の生産・販売ベンチャーを立ち上げるディビッド・グリーン氏(米国)など、プロデューサーとPBS関係者が長い調査を経て選んだ様々な社会起業家の活動が紹介された。

 制作側のスタッフも華やかだ。俳優・監督のロバート・レッドフォードがホストを務め、クリストファー・ヘッジの音楽はシタール(インドの弦楽器)の繊細な音色やストリート・チルドレンの哀しくも力強い歌声、奴隷の身分から解放され本名を誇りに叫ぶ少年の声など、サウンド・スケープをミックスさせた。

 番組を見ながら同時に、対局にある問題にも思いを巡らさざるを得なかった?世界の様々な問題やそれを解決しようとする社会起業家に対し、テレビというメディアが出来る、またやるべきことは何なのだろうか。

 PBSと社会起業家の接点は、ローカル・レベルでは決して珍しいことではない。例えばニューヨーク局では、市と協働でベンチャーを立ち上げ、ホームレスや中毒患者の職業訓練更正プログラムを担うドゥー・ファンド(The Doe Fund)を番組で取り上げたり、そこで更正した人を同局スタッフとして受け入れたりしている。しかし今回のシリーズは社会起業家に一貫して焦点を当て、全国ネットで放映、社会起業に対するより深い理解を狙った点が、ローカル番組と異なる。スコール財団やオンラインNGO寄付ポータルのグローバル・ギビング(Global Giving)などと共同で、視聴者に世界の社会起業家支援を呼びかけ、寄付額の倍額を同財団がマッチングする仕掛けを用意したり、さらに社会起業家に関する情報を発信するなど、プラットフォームとしてのメディアの力を最大限に活用する戦略を取った。アショカなど他の社会起業家団体もこの番組をウェブサイトで広報したり、ブログで特集を組んだりと、新旧メディアを駆使して社会起業家の活動を一層広げようとの動きが見られた。

 社会起業活動の広報や支援には、これまで"ニュー・メディア"つまりインターネットの力が駆使されてきた。また"オールド・メディア"でも活字媒体は比較的熱心だ。雑誌では社会起業家の特集、新聞も折に触れベンチャーや非営利活動を世界情勢、雇用問題などの文脈で取り上げ、認知度を高めるのに機能してきた。出版としてアカデミアからのディーズやエマーソンの研究書以外に、何よりもディビッド・ボーンスティーンの著書、How to Change the Worldの功労が大きい。

 しかしもう一つのオールド・メディアである、テレビが、「社会起業家」をタイトルに掲げ特集を組んできた例は余りない。大手民放、例えばNBCでは不動産王ドナルド・トランプがホストを務めるリアリティ番組「ザ・アプレンティス」が若手のビジネスマン、起業家を登場させ高視聴率を獲得、他方、ニュースでは頻繁に世界の貧困問題を取り上げる。だが、その両方に関わる「社会起業家」の概念は残念ながら登場してこなかった。他方、PBS自体も、政府からの補助金を分配する助成団体コーポレーション・フォー・パブリック・ブロードキャスティング(Corporation for Public Broadcasting)の会長で、超保守派のケネス・トムリンソン氏らから、「政治的中立性」に戻るよう、番組内容から政府資金など各面で急激な縛りを受け、その存在維持に大きな危機を迎えている。

 そうした中、「ザ・ニュー・ヒーローズ」をあえて放映した事実に、PBSが公共放送局として、社会起業家の支援をいかに重要に考えているかが見えよう。身近に触れることのない問題を、映像と音声でどのメディアよりも直接的に表現できるのがテレビ。かつて「ライブ・エイド」で資金を調達したゲルドフがいみじくも語ったように、世界の問題を変えるには、お金を集める努力だけでなく、人々の意識を変える必要がある。そのために効果的な媒体であるテレビをいかに使うか、日本のメディアにもぜひ考えて欲しい。

 同番組プロデューサーの1人が、ネットオークション大手、イーベイの元幹部で現在スコール財団を率いるジェフ・スコール氏と親しいことなどから発展したという、この企画。続くシリーズも予定されていると聞くから、待ち遠しい限りだ。
posted by CAC at 05:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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