2005年09月06日

■ アメリカ高齢社会改革

溝田弘美 高齢社会をよくする女性の会ニューヨーク代表

 現在のアメリカで起こっている政策的話題は、テロリズム議論を除けば、高齢者にとって重要な政策である年金・医療改革に関するものが多い。7700万人のベビーブーマー(1946〜64年生まれの人)が2011年から18年間に高齢者となり、年金や医療を一斉に受給し始めれば、公的制度の財政も枯渇しかねないのではないかという懸念があるからである。大統領をはじめとする保守系の政治家たちが唱える民営化政策は、低所得高齢者層にとっては死活問題である。一般的に、社会で政策起業家や社会起業家の存在を必要とする人々とは、政策変化に最も影響を受けるマイノリティ(移民、生活困窮者、障害者や高齢者などのグループ)であったが、昨今、高齢者のグループをマイノリティと呼ぶことはできなくなってきた。人口構造の急激な変化による財政負担の減少のみならず、7700万人の新高齢者をいかにコミュニティで活用すべきであるかという議論が沸騰している。

 ハーバード大学の公衆衛生大学院が昨年、メットライフ財団とともに、「高齢化改革:ベビーブーマーと市民の取り組み」(Reinventing Ageing: Baby boomer and Civic Engagement)(1)というレポートを発表した。このレポートは、現在の高齢者のように、ベビーブーマーたちも退職すればボランティア活動の機会に恵まれるだろうが、そのときこそ何百万人もの時間、エネルギー、スキル、そして経験を開拓し、コミュニティライフを強化するまたとない機会である。そのために、社会で主要なセクターとなる政府、NPO、ビジネス団体、フィランソロピー団体、宗教団体やメディアが起こすべきアクションをこのレポートは提言している。これらの主要セクターは、コミュニティのなかで、ベビーブーマーが個々に違った方法、時間、レベルで取り組む機会を提供し、社会問題の解決に取り組めるようにする必要がある。そうすることで、彼らの中から起業家的ボランティア精神( Entrepreneurial Volunteerism)というものが生まれてくるという。レポートの中では、起業家的ボランティア精神とは何か詳しく触れていないが、コミュニティ改革を行うためにはこの精神が重要であり、ベビーブーマーに期待されているといえる。

 上記のレポートのタイトルにあるように、なぜ、ベビーブーマーの高齢化改革が必要なのか。レポートによれば、アメリカのベビーブーマーたちは、彼らの親の世代とは全く逆に、投票行動にもコミュニティ活動にもあまり熱心に取り組んでこなかった層といわれている。アメリカには、AARP(2)という会員3500万人をもつ全米最大の巨大な高齢者NPOが存在するが、1958年の設立以来、ベビーブーマーの祖父母や親の世代をターゲットに急成長した。不十分な政府の医療政策を補う医療保険業など彼らのニーズに合うサービスを提供してきたと同時に、社会にコミットしたい世代にうまくボランティアの機会も提供してきた。そのボランティア活動の内容も、コミュニティで隣人とともに活動するのではなく、高齢者政策の形成・改革に組織的に政府や議会に影響を与える政策提言活動である。アメリカでは、政策形成者側は高齢者に関心が低く、高齢者自身が組織的に提言してこなければ、年金や医療政策などは形成されてこなかったため、高齢者自身がAARPのようなNPOを必要としていた。アメリカ以外の先進諸国で、AARPのような巨大高齢者NPOが見られないのはそのためであり、アメリカ型福祉国家の特長を示す一例である。

 しかし、ベビーブーマーたちがAARPのようなNPOに加入して活動するかといえば、それは疑問である。おおざっぱに言えば、彼らは貧しく政府の高齢者政策に頼る世代ではなく、個々の豊かなライフを満喫する世代である。社会的価値観も変化しており、統一されているわけではない。彼らが高齢期にさしかかった際、シニアビジネスのターゲットにはなっても、コミュニティで活用しようという発想はなかったが、もし活用できるとすれば、それはとてつもないパワーとなるであろう。

 ではどうすれば、ベビーブーマーたちをコミュニティで活用できるのだろうか。ハーバードのレポートでは、退職とかボランティアといった言葉には高齢化へのネガティブなイメージがつきまとっているため、まず言葉からアクティブ・シニアに合わせたイメージに一新する必要があるとしている。

 さらに、ベビーブーマーたちを引き込んでいくためには、コミュニティにおけるNPOの役割が重要である。それらのNPOは、AARPのような政治的にパワフルな存在というよりは、公的機関も含めた社会的ネットワークやボランティア活動を促進するコミュニティのつながりを強化し、地域事情に沿った政策起業家的発想をもつ組織でなければ、多様な価値を持った世代に対応できない。これらのNPOは、政策形成に配慮しつつ市民の社会的価値を明確にし、いかに持続的に社会改革できるかが評価基準となろう。

 ニューヨークのような都会では、人種的マイノリティが個々のコミュニティを形成しているが、そのエスニック・パワーには目を見張るものがある。次号では、ニューヨークにおける日本人コミュニティが政府機関を巻き込んで、実際に取り組んでいる高齢者支援活動について述べてみたい。

(1) レポート原文は、http://www.hsph.harvard.edu/chc/reinventingaging/index.html
(2) www.aarp.org

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[高齢社会をよくする女性の会 月例勉強会]
posted by CAC at 05:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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