2005年09月06日

■ プライベートホールのオーナーの野蛮さ

比留間雅人 シンクタンク勤務

前回、北九州のウテルスホールをご紹介しました。とてもエネルギッシュなホールオーナーの白土さんが、「自分がいいと思ったものだけ紹介する」と、あえて自主企画のみという運営方針をとっているのでした。

「自分がいいと思ったものだけを紹介する」。これ、簡単なようでいてなかなか難しいことではあります。稼働率が下がるかどうかという問題のはるか以前に、受け手が共感してくれなければ失敗なわけですから、そう言い切ること自体相当勇気のいることです。文化コンテンツの提供者は、多かれ少なかれこうした賭けをしているといえます。

よくこういう勇気のある人を前にすると、「日本人にしては珍しく・・・」といったマクラコトバが付きます。日本人は、自分の責任で何かを発信しないからね、というわけです。

「日本人らしくない」という表現が褒めコトバになるという、あからさまなフェティシズムもまた興味深いですが(そうそう、文化行政関連で接する行政の人の中には「僕は役人らしくないって言われるんですよね」とうれしそうに話す人もいますねぇ)、ここで確認しなくてはならないのは、たいていこの話題は、「日本はそもそも独自の文化を創造することがなかった」とか「日本人は民族性から言って発信は苦手なのだ」といった本質論でオチがつけられがち、ということです。ここで言う「日本人」がいったい誰で、何の根拠で一般化しているのか、あるいは、「そもそも、文字通り『創造的』だったといえる民族なんていたのか?」と振り返ってみれば、それが単なる幻想に過ぎないことなど、すぐわかりそうなものです。「オリジナル」は、「我こそはオリジナル」と強弁したい人(民族)が持ち出した妄想の所産ですし、歴史なんて後付けの物語に過ぎません。

この部分の問題がよく検討されないままに、「日本からの発信」を目指したのが80年代以降の日本の文化行政だったように思います。その結果どのような状況になったか。

例えば市民ホールの利用時間の延長だとか、柔軟な予算措置だとか、文化施設や制度の設計に文化の専門家が登用されたりと、それなりに制作の現場に配慮した制度が整いつつあります。でも、発信だと言いつつ、「そもそも日本人には・・・」といった本質論を棄てることがなかったので、良し悪しを判定する価値基準は外においたまま。結局、「本場ドコソコのナンタラ」という口上で始まる商売そのものは変わらず、文化コンテンツの超輸入超過状態は改善されないわけです。受け手も送り手も、他人(外国)の「我こそはオリジナル」という妄想を利用せざるを得ない状況。これを自虐史観と言わ
ずしてなんと言おう、というものです。

で、「良し悪しを自分たちで判断しよう」ということなのですが、じゃ、誰が何時、どのように判断すれば良いのか。

それは言うまでもなく、制度や権威ではなく受け手であるべきです。いろいろな表現が出てきて、それをまた皆が好き勝手に楽しんで、という状況が大事。そのために制度はまず、多様な判断基準が出てくるよう、リソースそのものを分散すべきでしょう。その中で、何となく残るものが出てきます。制度が判断するのは、すべてが出つくしたそのときです。それらを横目でみつつ、後付けの物語を作ること、これこそが制度側の判断です。

問題は、この「受け手」が自分で判断するという姿勢を持つかどうかです。この種の問題で教育的に振舞おうとする人は、「ニューヨークでは無名のアーティストの作品でも、良いと評価する人がいて、ちゃんと支えてくれる」とか、「ヨーロッパは昔から多様な民族が交流しているから、各人が自分の価値観を持っている」といった物語を持ち出すことがしばしばあります。でも、その語り口そのものが、既に「本場ドコソコのナンタラ」と同じ構造になっています。どこまでも判断基準を外部化しているに過ぎず、教育的なつもりがまったく教育的になっていないのです(もっとも、教育的であることよりも、「その外部に自分はいる」つまり「日本人らしくない、このワタシ」というステイタスの獲得が重要なのかもしれませんが)。そんな風に、わざわざ海外に迂回しなくても、充分教育的な瞬間を得ることができると思います。プライベートホールのオーナーたちの「野蛮さ」に触れた瞬間です。オーナーは、自分が惚れ込んだコンテンツを、ぼくらに投げつけます。それを取あえず受け止め、さて、どうしたものか…この逡巡の瞬間。

「発信力を高めるにはどうすればよいか」という施策はまず、こうしたオーナーたちのような「野蛮さ」の教育的効果を見極めることからはじまるのではないでしょうか(そのあと、後付けの物語=歴史をどう創作するのかという問題が控えていますが、さしあたってこれは別の教養を必要とするものなので、ここでは触れません)。

次回は、またプライベートホールのオーナーのお話をうかがいたいと思います。
posted by CAC at 04:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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