2007年10月03日

社会起業家は地方自治体との協働をいかに評価すべきか  吉田信雄

■はじめに
 社会起業家が成功しているか否かは、「ダブルボトムライン」を達成しているか否かで評価される。ダブルボトムラインとは、「事業の採算ライン」と、「ミッション達成ライン」の二つのラインを指す言葉である。
 しかし、事業の採算ラインの達成とは言うものの、成功していると言われている日本の社会起業家の状況とは、認識にズレがあるかもしれない。
社会的な評価が高まる一方で、採算性どころか、自らの収入を含めた人件費に対して十分なキャッシュフローを獲得出来ないまま、目の前にある仕事に追いまくられているというのが現実の姿であろう。
今後、日本において社会起業家が成功していく上で個々の社会起業家が経営努力して解決すべき課題であると、理想論をも持って指摘したところで、それが答えであるならば、社会起業家の未来を期待することはできない。
理想論を述べるのでなく、彼らを支える社会の側が充分なキャッシュフローを配分していくシステムをいかに構築すべきか、現実の社会の中でどのように実現していくのか、真剣に考える時期に差しかかったと言っていいのではないだろうか。
 社会起業家の地方自治体への期待は高い。例えば、『神奈川県内のボランタリー団体の実態と行政との協働に関する調査報告書』(神奈川県、2002年3月)の結果を見ると、「今後増やしたい収入費目」のトップは「行政からの資金」で36.06%、これとは別に「行政からの業務委託費」という項目も設置されていて、こちらは13.94%となっており、二つをあわせると50%、期待の高さが伺える。
 そこで本稿では、今後、私たちが社会起業家と地方自治体との関係をどのように評価しどのような戦略を持って関係性を構築していくべきか、特に最近注目される「協働」をいかに評価すべきか、という点に注目しつつ検討し考え方を述べることとしたい。
なお、文中意見にわたる部分はすべて私見である。

■地方自治体の取り組み 
1998年の特定非営利活動促進法(通称:NPO法)の制定以来、地方自治体ではNPOの活動促進を目的とした環境整備が進められてきた。
都道府県ごとの具体的な取組みの状況を整理した椎野修平「自治体のNPO政策」を見ると、2006年8月現在、46の都道府県がNPO支援の方向性を定めた指針を制定している。
具体的な取組みとしては、都道府県、市、人口2万人以上の町村及び東京都の特別区を対象とした『地方自治体のNPO支援策等に関する実態調査』(千葉県、2003年3月)の調査結果によれば、NPO支援を目的とした補助金は、25の都道府県、158の市区町村で実施され、またNPO支援を目的とした基金および公益信託が、13の都道府県、27の市町村で設置されている。
例えば、岩手県の「公益信託いわてNPO基金」(入門コース:上限20万円、展開コース:上限100万円)、福島県の「公益信託うつくしま基金」(スタートアップ支援:上限10万円、発展事業支援:上限100万円)などがある。

■新しい動き〜協働〜
さらに、地方自治体によるNPO関連政策の新しい動きとして注目されているのは「協働」と呼ばれる取組みである。
これまでの取組みが、NPOの立ち上げ支援や事業展開の支援を目的としていたのに対し、NPOと地方自治体が、ひとつの事業に互いの強みを持つ経営資源を提供し、一緒になって地域課題を解決しようという考え方に基づく試みである。

例えば、神奈川県では「NPO等との協働推進指針(2004年)」において、協働を「県とNPO等が対等の立場で、各々の特性や資源を生かしあい、課題認識、目的及びプロセスを共有するなど、協力して、公的サービスの形成や提供等の公益を目的とする事業に取り組むにあたっての県とNPO等の関係をいう」と定義している。
前述の椎野の整理では、既に30の府県が協働を予算化している。
例えば、神奈川県の「協働事業負担金」(1,000万円の経費負担を上限にNPOが事業提案・採択された事業は神奈川県が負担金を交付)、大阪府の「パートナーシップによる社会づくり事業」(120万円を上限額にNPOが事業提案・採択された事業の実施については業務委託契約を大阪府と締結)などがある。
都道府県、市、人口2万人以上の町村及び東京特別区を対象とした『コミュニティ再興に向けた協働のあり方に関する調査報告書』(内閣府、2004年7月)によれば、協働は2000年以降に盛んになり、今後の考えを尋ねたところ、都道府県の97.5%が「重要性を感じており実施していく」と答え、市区町村においても63.3%が同様の回答をしている。

■行政の下請け化という警告
地方自治体によるNPO支援または協働に対する資金提供が拡充しており、社会起業家がキャッシュフローを獲得するための環境整備が進んでいると評価することが出来る。
 一方で、一般的にNPOが政府・地方自治体からのキャッシュフロー獲得に偏重することについては「NPOが行政の下請け化する」などとの批判も多い。
社会起業家がミッションを達成するためには、理解者・賛同者の輪を広げることで社会問題に対する理解を浸透させていくことや、事業の質を上げることで具体的に課題を解決していくことが不可欠である。

NPOの理想的な収入バランスは、1/3が会費・寄付金収入、1/3が事業収入、1/3が政府補助金・民間助成金だといわれることがあるが、そこまでとはいかなくとも、結果的に、政府補助金に頼ることで、会費・寄付金収入や事業収入を増やしていく努力を怠るようになってしまうようであれば問題である。
社会問題に対する理解が浸透した結果が会費・寄付金収入額に、具体的な課題解決の結果が事業収入額に表れるという見方をすれば、収入のほとんどが政府補助金である場合、それだけを指して「行政の下請けだ」というレッテルを貼ることはないと思うが、「ミッション達成ライン」を達成していると評価出来るか疑問であるとはいわざるを得ないだろう。

■協働をいかに評価すべきか
 ベンチャービジネスへの投資を行うベンチャーキャピタルの世界では、経営ノウハウや人脈、特定分野に関する専門知識を「モア・ザン・マネー」と呼び、投資を成功させるための重要なカギであるという考え方が常識となっている。
ベンチャービジネスの世界の常識が、そのまますべて社会起業家の世界に当てはまるものではないだろうが、社会起業家の成功にもキャッシュフローの獲得だけでは不十分であり、経営ノウハウや人脈、特定分野に関する専門知識の獲得が不可欠であると言ってよいだろう。

「協働」を評価するにあたって、このモア・ザン・マネーという、ベンチャー投資における考え方が重要である。
前述のとおり、協働とは、NPOと地方自治体が、ひとつの事業に互いの強みを持つ経営資源を提供し、一緒になって地域課題を解決しようという取組みである。
 地方自治体が協働に提供する強みを持つ経営資源として挙げることが出来るのが、事業に直接又は間接的に関係する諸機関と調整をする力、事業に信用力を付与する力、各種媒体や施設を活用しての情報発信をする力、さらに政策を立案していく力である。

 なお、「事業に直接又は間接的に関係する諸機関と調整をする力」とは、法令等で定められた組織的な関係に基づきそれぞれの機関が協調しながら地域課題を解決していくような力や、窓口等の職員レベルでの信頼関係や相互扶助の関係といった人間関係に基づいたネットワークの力などを挙げることが出来るだろう。こうした関係の持つ力は地方自治体の有する社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と呼んでもよいのではないだろうか。

 モア・ザン・マネーという視点から見れば、このような地方自治体の持つ「関係機関との社会関係資本」、「社会的信用力」、「情報発信力」を獲得すること、そして「政策立案力」と連携することは、社会起業家の成功とって不可欠であるということが出来るであろう。
協働を、社会起業家が地方自治体からモア・ザン・マネーを獲得するというチャンス、として評価することで見えてくる協働の意義こそが社会起業家にとって重要なのである。

■おわりに
 しかし、協働を、キャッシュフローを配分する新たな手段が増えたという点でも高く評価すべきと考える。
キャッシュフローを社会起業家に配分していくシステムを構築していくことが課題であり、新たな手段が増えたという点だけでも高く評価してよいだろう。
 最近では、社会起業家と企業CSRとの協働という新たな試みが始まっている。企業との協働においても、キャッシュフローを配分するシステムの構築という視点から高く評価するとともに、モア・ザン・マネーをいかに獲得するかという戦略性を持たせた検討が必要であると考える。
安易にキャッシュフローの獲得を目的とするのみでは、今度は「企業のCSRの下請け化」という問題を抱え込んでしまう危険がある。

[参考文献]
椎野修平「自治体のNPO政策」
(2007/8/31アクセス)
岩手県「公益信託いわてNPO基金」
(2007/8/31アクセス)
福島県「公益信託うつくしま基金」
(2007/8/31アクセス)
内閣府『コミュニティ再興に向けた協働のあり方に関する調査報告書』

神奈川県「協働事業負担金」
(2007/8/31アクセス)
大阪府、「パートナーシップによる社会づくり事業」
(2007/8/31アクセス)
神座保彦「社会起業家(ソーシャル・アントルプレナー)の台頭とその機能」(ニッセイ基礎研REPORT、2005年 1月号)、「ソーシャル・ベンチャーとベンチャー・フィランソロピー」(ニッセイ基礎研REPORT、2005年 3月号)
posted by CAC at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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