2007年10月03日

社会を変える力―国際協力の現場から見る「ソーシャル・イノベーション」―C『イノベーションにリーダーシップは必要か?』

うれしいニュースが飛び込んできた。このコラムで取り上げているネパールの社会起業家モハビール・プン氏が、「アジアのノーベル賞」とも呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した。山村でのワイヤレス通信技術を使ったイノベイティブな活動とそのリーダーシップが評価されたのだ。今回は、コミュニティーでのリーダーシップに焦点を当ててみたい。

山村におけるリーダーシップの特徴
ネパールの山村といっても、一言で言い表すことはできない。地理的条件や社会経済環境、風習の違いにより、各村の様子は千差万別である。リーダーシップの形態も同じである。村の会合に参加すると、その特徴を垣間見ることができる。

たとえば、市場へのアクセスが悪いティコット村(以下、A村)は、通称「キャプテン」と呼ばれる元グルカ兵(イギリス軍傭兵)の長老が長い間村の要職に就いている。彼が「うん」と言わない限り事は何も進まない。
キバン村(B村)も、グルカ兵経験者が村長になる慣習がある。ただし、同一人物が長期的に要職に就くことはない。村長は40代の中堅クラスから選ばれ、定期的に交代する。歴代の村長や要職を退いた村人は長老会に属し、村の重要事項について適宜アドバイスを与える。リーダーを定期的に輩出することで、リーダー経験者の層が厚くなり、新米村長をバックアップする体制が整っている。ただ、長老会の老人パワーに押され気味のためか、若者たちの影は薄い。

社会起業家プン氏が活動するナンギ村(C村)は、彼の存在を抜きに語ることはできない。彼の到来により、コミュニティーが活発になり、村には高校ができ、水力発電が開始され、電話やインターネットも使えるようになった。しかし、プン氏自身にリーダーの自覚があるかは定かでない。コミュニティーを少しでも良くしようとする彼の信念とその活動に共感し、学校の先生をはじめ彼と共に活動する人の輪がどんどん広がっている。

アウロ村(D村)は、教育熱心な若い先生や村の森林保全に長年取り組む人はいるが、村を代表するリーダー格にあたる人物はいない。しかし、市場へのアクセスが比較的良いため、現金収入となる作物の栽培にいち早く挑戦するなど、コミュニティーには活気がある。リーダーがいないぶん、若者も老人も協力して村の運営に取り組んでいる。

チトレ村(E村)は、7000m級の山々が間近に見えるトレッキング街道沿いの村である。個人が民宿経営などそれぞれの観光業に専念しているため、コミュニティーへの関心は低い。それでも、さすがに事業を切り盛りするだけあり、会合で個々人は意見をはっきり主張する。特に、他の村の女性が男性の前での発言を恥ずかしがるのに対し、E村の女性は男性と同等に意見を述べる。しかし、皆の意見を取りまとめる人がおらず、物事が決まりにくい。

山村におけるリーダーシップの形態
ここで、企業のリーダーシップを2次元で考えるマネジリアル・グリット理論を応用し、村のリーダーシップの形態を類型化してみたい。下図は、上述した5村の特徴を2つの軸で相対比較し、グリット上に落とし込んだものである。

図:リーダーシップの形態別類型


cac.JPG



X軸は、リーダーまたは村人の「コミュニティーへの関心度」を示す。5村の中では、社会起業家プン氏のいるC村が最も高く、D村およびB村がそれに続く。長老が長年要職に就くA村はコミュニティーの発展というよりは維持に務めるという点で、関心は中程度と言える。観光化が進むE村の関心度は最も低い。

Y軸は、コミュニティー関連事項を決める際の「個人への決定権集中度」を表す。コミュニティーに関する決定権が、ある特定の人物に集約されている場合は集中度が高く、より多くの人物または集団内に委ねられる場合は、各人の決定権集中度が低いと表現する。長期間にわたり同一人物が主導権を持つA村が最も高く、次にプン氏のいるC村、中堅リーダーと長老会が率いるB村が続く。D村とE村は、リーダーの不在または影響力が少ないことから、決定権が多くの人物に分散する傾向があり、各人の決定権集中度は弱くなる。
          
これらを相対比較すると、各村のリーダーシップの形態が見えてくる。
・長老主導型:リーダーシップが長老に集中する。
・社会起業家誘導型:社会起業家の影響が大きく、コミュニティーへの関心も高い。(補足:社会起業家の主導ではなく、社会起業家の影響により村人が導かれるという状況を「誘導型」と表現した。)
・協力型:目立つリーダーはいないが、村人が協力しコミュニティーの活動に取り組む。
・自由放任型:村人のコミュニティーへの関心は低く、個々人が自由に自分の活動・事業に取り組む。コミュニティー内のリーダーシップは弱い。
・ほぼ中庸型:リーダーシップもある程度あり、コミュニティーへの関心もある。

ソーシャル・イノベーションとリーダーシップの関係
では、ソーシャル・イノベーションが起こっているC村社会起業家誘導型リーダーシップと他の村のリーダーシップとの違いはいったい何なのだろうか。そして、社会起業家誘導型リーダーシップに方向転換するためには、何が必要なのだろうか?

まず、A村長老主導型との違いを考えてみたい。A村には強力なリーダーシップがある。しかし、長老の関心はコミュニティーの維持管理にあり、新しい事にあまり興味を示さない。つまり、村に良い変化をもたらすであろう新しい事や情報に敏感でない。これは、斬新なアイデアを生み出す阻害要因ともなる。

次に、B村中庸型およびD村協力型リーダーシップと、C村社会起業家誘導型リーダーシップの違いに注目してみる。B村とD村のコミュニティーへの関心度はC村に近く、新しい情報にも敏感である。ただ、決定権が特定の人物にないため、「さあ、挑戦してみよう!」という鶴の一声がなかなか出てこない。新しい事を始める勇気・決断力に欠けているのである。

新しい事に対する敏感力とアイデア力、そしてそれに挑戦する勇気と決断力。これが、C村社会起業家誘導型リーダーシップにあって他の村にないものである。

ソーシャルイ・イノベーションは、個人やグループにより新しいアイデアが生み出されることから始まる。そして、アイデアは実践され、その活動は規模を増すごとにシステム化されていく。社会起業家誘導型リーダーシップの特徴といえる敏感力、アイデア力、勇気と決断力は、このソーシャル・イノベーションの成長過程(アイデアの創出、実践、システム化)に欠かせない存在であると言える。

それでは、社会起業家誘導型リーダーシップの根底に流れるものは何なのだろうか。そのヒントは、C村のキーパーソンである社会起業家プン氏にあると言える。プン氏を見ていると、彼が意識的にリーダーシップを採っているようには見えない。自分の確固たる目標に、ただひたすら突き進むのみ。その勢いにつられて他の人たちも動き出す。そして、この「目標」が社会的な課題に取り組むものであればあるほど、より多くの人から共感され、より多くの人を巻き込む活動となってゆく。

確固たる目標があるからこそ、情報に敏感で色々なアイデアをひねり出すことができ、新しい一歩を踏み出す勇気と決断力が生まれる。この目標が、揺るぎない信念に裏打ちされたものであることも忘れてはならない。
posted by CAC at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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