2007年10月03日

『米国非営利融資のパイオニア、ミラー女史をお迎えして〜Nonprofit Finance Fund:NFFとは』

今秋、10月に米国の非営利金融のパイオニアとして著名なNonprofit Finance Fund: NFFの代表&CEO、クララ・ミラー女史をお迎えしてセミナー及びフォーラムを開催することとなった。クリントン政権時代に創設された制度CDFIファンド(コミュニティ開発金融機関向けファンド)を背景に、大規模にNPO及び社会的事業に融資を行って成功している。財務省の諮問委員会の座長も務めて制度設立に寄与し、貧困層のコミュニティ開発へ資金のアクセスを容易にした。

CDFIファンドのしくみ、さらに、NFFとはどのような組織なのか、その実態をみてみたいと思う。日本にはない制度と組織。日本の今後のコミュニティ投資を模索する上で示唆に富むことであろう。
1.CDFI(コミュニティ開発金融機関、Community Development Financial Institutions)

(1)米国の社会
 米国は、1%の国民が40%の富を持つ一方で、人口の13%が貧困ラインを下回っている貧富の格差が激しい社会である。1960~70年代にかけて、米国の都市では、モータリゼーションの発達により、白人の中流家庭が、広い土地を求めて、郊外に引っ越した。その結果、都市の中心部のコミュニティ(インナーシティ)には、貧しいエスニック・マイノリティ(アフリカ系やラテン系米国人など、一部、東欧系などの白人の米国人もいる)が取り残された。つれて、製造業が衰退して、工場労働者の働き場所が少なくなり、都市中心部が荒廃した。2005年8月、ルイジアナ州ニューオリンズ市で、ハリケーン・カトリーナの被害を受けたのは、車を持たない都市中心部に住む貧しい人だったのは記憶に新しい。

(2)銀行の融資差別
 1960~70年代に、銀行が、レッドライニングとして、貧困コミュニティに対する融資を拒否する問題が起こった。そこで、1977年に、連邦政府は、コミュニティ再投資法(CRA,Community Reinvestment Act)を制定し、預かった預金は、その地域への投資を義務づけた。FRBは、1年半ごとに、CRAに基づき金融機関を4段階に格付けしている。
そして、1994年に、クリントン政権は、コミュニティ再投資法を強化するために、コミュニティ開発金融機関法(CDFIA、Community Development Financial Institutions Act)を制定し、財務省に、コミュニティ開発金融基金(CDFI基金)を設立した。さらに、1995年に、修正コミュニティ再投資法を制定した。

(3)CDFIとは何か
 財務省のCDFI基金は、すべての米国人が適切な資金を受けられるように、おもに3つのプログラムを実施している。

1つめは、財務省は、認定されたCDFIに財政支援補助金(年間60億円程度)や技術支援補助金を支給するCDFIプログラムを実施している。2001年の年次報告書では、CDFIは、CDFI基金の財政支援補助金をもとに、15億ドル(1,710億円)を融資した。内訳は、住宅56%、ビジネス開発18%、個人・消費者ローン7%、コミュニティ施設5%、零細企業支援2%、その他12%となっている。CDFIは、CDFI基金の財政支援補助金をもとに、平均27倍の資金を民間セクターから調達して、融資をしている。

2つめは、2003年から、財務省は、認定されたCDE(コミュニティ開発機関、CDFIを含む)に投融資する金融機関に税額控除する新市場税額控除プログラム(New Market Tax Credit Program)を実施している。後述するNFFも、このプログラムを実施している。

3つめは、2003年に、財務省は、CDFIの投資拡大や低所得コミュニティへの投融資に貢献する金融機関に補助金を支給する銀行事業表彰プログラム(Bank Enterprise Awards Program)を開始した。この3つのプログラムにより、金融機関はCDFIへの低利融資が可能になった。つまり、財務省は、アメ(税制優遇)とムチ(格付け)によって、金融機関の資金が、リスクのある貧困コミュニティに行き渡る仕組みをつくったのである。

CDFIは、法人格を問わず、営利企業でも、非営利組織でもなることができる。そして、CDFIの補助金をもとにして、財政的な支援と技術的な支援を組み合わせた包括的な支援をしている。CDFIは、@経済開発(ビジネス開発、雇用創出、商業不動産開発)、A低所得者向け住宅開発、Bコミュニティ開発のための融資(貧困コミュニティへの基本的な銀行業、金融の教育訓練、略奪的な貸付の選択肢)の3つを目的に活動している。
CDFIには、コミュニティ開発銀行(シカゴにあるショアバンクなど)、コミュニティ開発信用組合、コミュニティ開発ローンファンド(後述するNFFなど)、コミュニティ開発ベンチャーキャピタル会社などの種類がある。

2.コミュニティ開発法人(CDC、Community Development Corporation)について

 CDFIの投資金額は住宅向けが56%と多いことがわかった。それでは、なぜ、住宅向けが多いのだろうか。その理由は、CDFIは、草の根NPOであるCDCが取り組む低所得者向け住宅開発プロジェクトの資金を提供しているからである。米国の低所得者向け住宅の制度は、日本の制度とは大きく異なっている。
 日本では、低所得者向け住宅は、都道府県の住宅供給公社が提供している。たとえば、都営住宅では、比較的、低い年収の世帯しか入居することができない。

 一方、米国の低所得者向け住宅供給の主役は、全米に2,000団体以上ある草の根NPOであるコミュニティ開発法人(CDC)である。CDCは、衰退した地域を対象に、低所得者向け住宅建設、コミュニティオーガナイジング、起業支援などの事業をしている。
CDCは、日本の営利の不動産開発業者(デベロッパー)と同様に、土地を取得し、住宅を建設し、販売する。このように、米国では、NPOがビジネスをするのは珍しくない。CDCがNPOである利点は、501(c)3を取得すると、個人や企業がNPOに寄付すると、税額控除の対象となることである。

歴史をさかのぼると、米国も、日本と同様に、政府が低所得者向け住宅を供給していた。1949年に、住宅法が制定された。米国の公営住宅(地方の住宅供給公社)は、連邦政府の助成を受けて、低所得者向けに、巨大な団地(賃貸集合住宅)を各地で建設した。しかし、米国は、移民の国で、民族や人種によって、モザイク状にコミュニティを形成しているので、コミュニティによって、住宅ニーズが大きく違う。地域のニーズに合わないために、公共住宅が廃墟となるという失敗を犯した。

そこで、連邦政府は、低所得者向け住宅の間接支援に乗り出した。1974年に、ニクソン政権は、住宅およびコミュニティ開発法を制定した。連邦政府は、市などの地方政府を通して、CDCにコミュニティ開発包括補助金(Community Development Block Grant)を支給する。そして、地域に根ざしたCDCが、補助金を受けて、低所得者向け住宅(賃貸と持ち家)を開発するという制度が生まれた。さらに、1986年に、レーガン政権は、住宅都市開発省の低所得者住宅投資税額控除制度(Low Income Housing Tax Credit)をつくり、銀行からの投資を促進した。銀行は低所得者向け住宅に融資すると、10年間税額控除を受けられる。
このように、米国の低所得者向け住宅のコミュニティ開発は、行政や営利と非営利の組織が連携しながら、1つの産業を形成しているのである。

3.NFF(Nonprofit Finance Fund、NPO金融ファンド)の組織とプログラム

(1)NFFの融資の特徴
 NFFは、CDFIであるが、銀行ではない。NPO向け融資の中間支援組織といえる。
2005年末、NFFが融資を受けた金額3,493万ドル(40億円)のうち、財務省のCDFI基金は100万ドル(1億1,400万円)と、全体の3%に過ぎない。そのほかでは、銀行58%、財団18%(米国の助成財団がNPOに融資するのは珍しくない)、証券・生保13%、民間のCDFI8%となっている。このように、銀行・証券・生保を合わせると金融機関から融資を受けた金額が71%と多い。NFFは、さまざまな機関から融資を受けた後、その資金に一定の金利を上乗せして、NPOに融資している。NFFは、ほかのCDFIと違って、低所得者向け住宅開発プロジェクト向けの融資が少なく、低・中所得者向けコミュニティにあるNPOの施設・設備投資向け融資が多いことが特徴になっている(後述)。

(2)NFFの組織の特徴
 NFFは1980年設立以後、現在、全米7カ所に拠点がある。そして、3つの理事会(全体統括と2つのプログラム(ビルディング・フォー・ザ・フューチャーとニュー・イングランド・カルチャー・ファイシリティー・ファンド))と7つの諮問委員会(6つの地域と1つのプログラム)を持っている。この6つの地域とは、東海岸(ニューヨーク、フィラデルフィアとニュージャージー、ニューイングランド、ワシントンDC)、西海岸(サンフランシスコ)、中西部(デトロイト)であり、1つのプログラムは、全米のナショナル・アライアンス(CDFIプログラム)である。このように、NPOが、複数の理事会や諮問委員会を持っているのはきわめてまれである。

つまり、NFFの理事会と諮問委員会を見ると、NPOの地域密着のよさを生かしながら、NPO向けに特化した専門的な金融サービスを提供していることがわかる。このような高度なプログラムを提供することによって、中規模のNPOの優良顧客を開拓して、そこから高収益を上げていると考えられる。
ちなみに、NFFのCEOであるクララ・ミラーさんは、クリントン政権時代、財務省のCDFI基金のコミュニティ開発諮問委員会の委員だったため、全国的に名前が知られている。それが、NFFのビジネス展開に有利に働いている。

(3)NFFの4つのプログラム
 NFFは、自分たちの組織を以下のように説明している。

「NFFは、融資が難しく、融資のニーズを十分に満たしていないNPO、コミュニティ開発プロジェクト、社会的企業に対して、革新的な資本の解決と助言の提供者として、米国のなかで指導的な役割を果たしている。NFFは、すべてのセクターとあらゆる大きさの組織にサービスを提供しているが、中規模の組織での成長のニーズに資金を提供するクレジット(融資)とキャピタル(資本)へのアクセスを特に提供している。NFFは、この分野で、革新的な金融商品やサービスの開発の能力を示してきた。たとえば、「NPOのビジネス分析」、「ビルディング・フォー・ザ・フューチャー」、そして、NFFの「プライベート・エクイティ」グループであるNFFキャピタルパートナーズなどがある。」

 それでは、NFFの特徴である4つのプログラムを見てみよう。@とAがNPO向けの融資プログラム、BとCがNPOの募金のコンサルタント事業である。NFFは、NPO向けの融資事業にくわえて、NPO向けの募金にかかわるコンサルタント業をしている。

@ナショナル・アライアンス・プログラム
 財務省のCDFIプログラムの財政支援補助金と技術支援補助金をもとにしたコミュニティ開発の融資事業である。このプログラムは、融資、NPOビジネス分析、ワークショップ、施設と資金の管理によって構成される。NPOビジネス分析は、NPOのミッションをどのようにして資金需要に結びつけるかをNPOと一緒になって考える。

Aエデュケーション・ベンチャーズ・イニシアチブ
 NFFとゴールドマンサックス財団のパートナーシップによるプログラム。チャータースクール(日本の地域運営学校に相当)の放課後の補習授業に対して融資と関連サービスを実施している。NFFは、ゴールドマンサックス財団から100万ドル(1億1,400万円)の融資を受け、それを原資にして、550万ドル(6億3,000万円)を、17の学校内、放課後、そして、ほかの教育関連のプログラムに融資している。融資された資金は、プログラムの運転資金や組織開発に使われる。

Bビルディング・フォー・ザ・フューチャー
 助成財団などの資金提供者とNPOのパートナーシップによって開発された。これは、NPOのファンドレイジング、具体的には、基金や基本財産を計画・開発・管理するのを手助けする。現在、3つのプログラム(米国北東部のボーイズ・アンド・ガールズクラブ、全国組織のジャズネット、ミシガン州南東部のユナイテッド・ウェイ)を実施している。35の組織に、7,500万ドル(85億5,000万円)の資金調達を支援した。また、マッチンググラントも実施している。

CNFFキャピタルパートナーズ
キャピタルパートナーズは、NPOが、インパクト、規模、品質の重大な変化を支援する必要がある株式のような資本を引きつけるのを手助けする。親切な仲介者の働きをして、キャピタルパートナーズは500万ドル(6億円)〜3,000万ドル(34億円)の主要な募金キャンペーンを推進するのを助ける。そのため、経営陣は、1年以上彼らを支える高品質なプログラムと収益を生む能力に集中することができる。

4.CDFIの融資の審査基準例
 CDFIがNPOに融資する審査基準の例は以下の通りである。CDFIのNPO向け融資は、社会性をビジネスプランのなかで評価するが、事業性(元本と利息の返済の見込みがあるかどうか)を重視して、融資の審査をする。また、NPOに融資をするとき、担保があれば担保とるが、無担保でも、融資をする。NFFの融資返済率は99%と高い。融資の審査がしっかりしていて、返済が見込めない団体に融資していないためと考えられる。

(1)バランスのよい財務諸表(損益計算書と貸借対照表)/寄付、会費、利用者からの事業収入(Earned Income)、基本財産、預金など。小規模で歴史が浅いNPOは不利。

(2)土地や建物の有無/土地や建物を担保にすれば、融資を受けやすい。

(3)クレジット・ヒストリー/ローンなどを期限内に返済しているかの記録。

(4)マネジメント能力/人脈があり、経営能力の優れる理事やマネジメントスタッフがいるとプラスになる。

(5)ビジネスプラン/社会的にインパクトのあるプラン(低所得者やマイノリティを雇うなど)は必須だが、それよりも全体的なプランを重視。

(6)ほかの財源の確保/財団、個人、企業、行政からの支援は得られるか(得られそうか)。

(7)融資を受けるNPOが属する市場の状況。

(8)そのCDFIがもつ独自の融資基準。

5.NFFの融資の概要

(1)NFFの融資実績
2006年末現在、NFFは、1,100億円以上のプロジェクトに対して、500件、180億円(1件あたりの平均融資金額は3,600万円)の融資を実施してきた。

(2)NFFが融資するNPOの分野
文化芸術団体、コミュニティセンター、コミュニティ開発法人、教育機関、保健団体、社会サービス団体(青少年団体、保育園を含む)、宗教団体。

(3)NFFの融資基準
 中規模のNPOの成長ニーズに合わせて融資する。
@融資の種類/NPOの施設・設備の投資資金の融資とつなぎ融資。

A融資を受けるNPO/設立から3年以上の501(c)3のNPO。

B融資金額/200万ドル(2億3000万円)まで。

C融資期間/最大5〜7年間。

D利率/ケースバイケース。

E担保/多くの場合、担保や民間の信用保険の加入は必要ない。

(4)NFFの融資事例
 NFFの融資事例を紹介する。ちなみに、米国のNPOの定義は広く、日本のNPO法人、公益法人(財団法人、社団法人)、学校法人、社会福祉法人、医療法人を含んでいる。

@ブルックリンハイツ・モンテッソーリ・スクール(ニューヨーク州ニューヨーク市)
 モンテッソーリ教育法を実践する私立の幼稚園、小学校、中学校。ことばの発達が遅れているこども向けのプログラムを設けている。生徒の1/5は経済的な理由で奨学金を受けている。NFFは、体育館、図書館、セラピールーム、教室、幼稚園を増設するために、50万ドル(5,700万円)を融資した。

Aジャパニーズ・ハウス・アンド・ガーデン(ペンシルベニア州フィラデルフィア市)
 17世紀の様式の日本家屋と日本庭園が2エーカー(8,000u)の敷地のなかにある。展示施設と教育プログラムがあり、日本の伝統を伝えている。NFFは、ヒノキづくりの屋根を修復するために、12万2000ドル(1,400万円)のつなぎ融資を実施した。

Bコンピュメンター(カリフォルニア州サンフランシスコ市)
NPO向けの情報通信技術支援を目的に活動している。NFFは、最新式のCRMのソフトウェアとハードウェアを購入するために、155万ドル(1億7,600万円)を融資。

Cデトロイト・アントレプレナーシップ・インスティテュート(ミシガン州デトロイト市)
 低所得者が住むコミュニティで、個人に対して、起業家や経済の知識の教育訓練をする機関。NFFは、自社ビル取得とビルの改装資金、そして、表彰プログラムのために100万ドル(1億1,400万円)を融資。
posted by CAC at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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