2005年05月26日

■「プライベート・ホールの底力を聞こう!:オーナー連続インタビュー 第一回 北九州市ウテルスホール」

比留間雅人 シンクタンク勤務
ウテルスホール(http://www.uterushall.com/about/index.html)は、JR鹿児島本線「折尾駅」からほどない住宅街にあります。

設立は1998年。ホールオーナーの白土良子さんによれば、自宅建築の際「いつでも集中して音楽を聴いたりピアノを弾いたりできるスペースがほしいなぁ」と考えたことが、そもそものきっかけ。ちなみに白土さんは音大出身です。

ところで、白土さんの旦那さんは開業医で、自宅に医院を併設していました。そんな背景もあってか、白土さん自身も、人間の心理・生理状態を改善する音楽の機能に関心をもつようになり、長年音楽療法の勉強をしていました。いつしか「併設されている医院の患者さんの治療にも、音楽を役立てられないかしら」との思いを抱くにいたり、自分が音楽を楽しむために確保されたスペースは、最終的に他の人と一緒に音楽を楽しむためのホールとなったわけです。白土さんが、音楽への個人的な愛着の先に、「音楽療法」という形で社会性を見ていたことを考えると、自然な成り行きなのかもしれませんね。

「企画は、私白土良子が勝手気ままにいたしております。当初から分野にはこだわっていないのですが、ホールの名前『ウテルス(子宮)』は、『育てはぐくむ場』『羊水のように癒され守られる場』といった意味を込めています。その思いは今でも大事にしています。素質や才能、実力があっても公演のチャンスがない芸術家や、まだこれからという段階でも一生懸命さがあり頑張っている芸術家の中で、『これは皆さんにぜひ届けたい』私が感動し、条件など折り合いのつく人を、できるかぎり取り上げたいと考えています」。

「演奏家や出品者を確保したり発掘するルートは特にありません。私の周りにアーティストが多いので、何となく…という感じです」。

「何となく…」と、さらっとおっしゃっていますが、白土さんの行動力は凄いです。

たとえば、ジャンルを超えた幅広い音楽活動で世界的に評価を得ているベーシストの藤原清登さんは、ウテルスホールの杮落としライブにニューヨークから駆けつけるなど、このホールと深く長い関係をもっています。その関係は、ホールを持つ前に、白土さんが藤原さんのライブを企画したところから始まります。

もともと藤原さんとの接点があった白土さんや地元のジャズミュージシャンたちの間で、ちょっとしたきっかけで「九州でも藤原さんのライブをやりたいね」という話がもち上がりました。当時白土さんにはライブを主催するノウハウなど一切無かったのですが、ライブハウスやホールと交渉し、知合いに声をかけてチケットを手売りしと、手探りで公演を実現しました。このときのお客さんの反響が大きく、もっと頻繁に藤原さんの演奏を聴きたいと、後援会キヨトクラブ九州まで設立してしまいます。

「演奏者にとてもいいチャンスを与えられる喜びや、多くの方とお会いできることが、楽しいです。また、大ホールではあまり味わえない手作りの味を出す事の面白さ楽しさもあります。」

このホールは、藤原さんのライブのときと同様、白土さんを中心としてそれを家族が支えるという、文字通り「手作り」で運営されています。公演はお祭りのようなもの、と白土さんは言います。アルゼンチンタンゴを屋外で楽しもうと、特設ステージをみんなでおでんをつまみながらライブを始めたら雨が降ってきてしまい、結局、みんなでホールに戻ったり…なんていう楽しいハプニングも、手作りならではでしょう。

手作りならでは楽しさもある反面、大変さもあるようです。

「自分ひとりで何もかもやらなくてはならない大変さもあります。特にチケットが売れない時はつらいですね」

貸しホールはやらないの?との質問には、「決してやる気はありません」とキッパリ。むりに稼働日を増やそうというつもりはないと。このホールは、ホールオーナーが「面白い!」「コレいい!」と感じ、自信をもって勧められるものだけを紹介するというスタイルを徹底しているわけです。

じゃ、具体的にどんな公演を手がけているかというと、クラシックやジャズ、民族音楽、演劇(音楽劇もあり)、木版画展などの美術展などなど。先ほどの藤原清登さんやベーシストの鈴木良雄さん、ピアニストの神谷郁代さん、かのミケランジェリの愛弟子ブルーノ・メッツェーナさん、その弟子の朝川万里さん、利賀村の演出家コンクールで最優演出家賞を受賞したペータ・ゲスナーさん…と、手作りというには「おっ!?」という人のラインナップが興味深いです。プライベートホールの醍醐味でしょう。コンサートや展覧会だけでなく、メッツェーナさん父子(息子のフランコさんはVln)によるマスタークラスも開講したことがあります。

とはいえ、散漫な印象を受けるかもしれません。特定のジャンルを深耕しているわけでも、オールジャンルというわけでもないからです。これは「ホール運営」という一般論から言えば、あまりよろしくないことでしょう。どんなホールなのか、わかりにくいからです。わかりにくいということは、それ自体がユーザの利便性を損なうし、ホールのブランドが定まらないといった弊害を生み、ひいては一つ一つの公演のチケット販売にも影響してくるだろうからです。

でもぼくは、こういう「わかりにくさ」にこそ〜「プライベートホール」という、よく考えればなかなか妙な言葉が既に匂わせていた〜魅力を感じます。

サロンではなくホール…ならば「広く門戸を開いた場所」かと思いきや、そこは「プライベート」でもある。いわゆるコンサートホールだと、ホールはただの箱のように思われてしまうので「この体験はこの場が与えてくれたものだ」と思うことはあまりありません。どんなにすばらしい音と出会えても、ホールは、せいぜい音響の良し悪しとして話題になる程度です。しかしプライベートホールでは、聴衆は、演奏家や作曲家だけでなく、オーナーという人間に一体化したホールと接することになります。

ここで聴衆としてのぼくらが感じるのは、「このオーナーが、ここまでこの演奏家に入れ込むのは、なぜだろう」という「分かりにくさ」です。そして、オーナーの体験を追体験しようとするのです。オーナーがそれを「発見」したように、自分もそれを発見しようとする。それは、魅力的な「分かりにくさ」ではないでしょうか。

「(お客さんは)公演にもよりますがご近所から県内まで、年代も子供から高齢者まで様々です。客層を無理に広げようとは考えていません。それは自ずと広がっていくものだとゆっくりかまえています」。

もし「ホールの運営」が第一だとするなら、こうもばかりは言っていられません。もっと企業的/組織的に運営しなくてはならないでしょう。でもオーナーの白土さんにとっては、ホールは「自分が良いと思った人の公演をみんなで楽しむ」ための手段に過ぎないようです。どんな仕組ややり方がいいのかは、結局、何を実現したいのかにかかっていて一概には言えない、ということだと思います。

最後に、条件さえ整えばぜひやりたい夢の企画は?
「ウテルスから育ってビッグアーティストになった方と、何かチャリティー企画をやりたいですね」。                               

posted by CAC at 19:30| Comment(0) | TrackBack(1) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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"ウテルスホール"インタビュー!
Excerpt: 「プライベート・ホールの底力を聞こう!<br />        オーナー連続インタビュー <br />   第一回 北九州市ウテルスホール」
Weblog: uterus hall
Tracked: 2007-11-22 17:17
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