2005年05月26日

■ ニューヨークの芸術シーンに社会起業の風

大西たまき  インディアナ大学フィランソロピー学科研究員
ウォール・ストリートの金融ビジネス、リベラルな民主党員、そして世界各地からアメリカン・ドリームを求めてやって来た人々に埋め尽くされ多様な言語の飛び交うニューヨークは、まるで“コンテンポラリー(現代)都市”の象徴であるかの様だ。しかし他方で実は、非常に“古典的”な顔を持つのだ ― 少なくともこれまでのニューヨークの芸術団体の資金調達のあり方においては。
ニューヨークの芸術団体は、その収入のうち政府からの支援は11.2%(内訳はニューヨーク市から7.5%、国が1.2%、ニューヨーク州が2.5%、Alliance for the Artsの調査より)と、全国的に見ても低いレベルだが、しかしそれに反して、ロックフェラー、カーネギー、アスターという富裕のフィランソロピストや大型財団が古くから存在してきた。企業によるメセナ活動も1920年頃から始まり、1967年には日本の企業メセナ協議会に似た機能を持つビジネス・コミッティー・フォー・ジ・アーツBusiness Committee for the Arts (BCA)が設立、企業からの芸術支援にも比較的恵まれた。現在も、ニューヨークの多くの芸術団体は多くのビジネス界のリーダー達によって支援を受けている。サンフォード“サンディ”・ワイル(シティ・グループ)、ジョゼフ“ジョー”・カルマン(フィリップ・モリス)、ジム・マーカス(ゴールドマン・サックス)等、例を挙げれば枚挙がない。
従って多くのニューヨークの芸術団体は、基本的にこうしたフィランソロピストからの支援に寄って活動を運営してきた。もちろん事業収入earned incomeが6割以上を占める芸術団体も少なくないが、例えばコンサートや入場チケット販売、美術館やホール・スペース等の貸与等、比較的昔からの事業スタイルが多い。加え、9/11のテロ事件により市全体の景気が低下したことで、コモン・グラウンドCommon Ground Community、ニュー・リ−ダーズ・フォー・ニュー・スクールズNew Leaders for New Schools等の社会起業活動も定着し、また元々ブロードウェイ等のエンターテインメントの営利事業体が多いニューヨークにもかかわらず、芸術団体による新たな事業、ソーシャル・ベンチャーの動きも大きな発展を見せる事なく終わってきた。
そうした中、低所得者、零細企業、NPOを助ける地域開発インターミディアリ、シードコSeedcoと、テロで直接的打撃を受けたニューヨーク、ダウンタウン地区の芸術団体を支援するローアー・マンハッタン文化協会Lower Manhattan Cultural Council による経営セミナー「マネー、マネジメント、マーケティング:ダウンタウンのクリエイティブ・コミュニティで社会起業を始めよう」(2005年2月3日)は、画期的な事と言えよう。ニューヨークの芸術団体の新たな経営の道を示すと同時に、ホームレス等の社会的・人権的問題、教育問題等に携わる団体が目立つ社会起業分野において芸術分野からの積極的な試みでもあるからだ。
もともとローアー・マンハッタン文化協会は、昨年末閉鎖された9/11ファンドの残余金全額(約5億5千万円)による助成を得て、地元の建物を芸術家の活動スペースに使い、地元芸術団体の恊働マーケティング企画等に助成することを始めた矢先のこと。そこにシードコとのパートナーシップによって開催したこの経営セミナーには地元の様々な芸術団体・企業150強が参加、会場は非常にポジティブな熱気に満ちていた。零細企業の雇用促進を支援するシードコらしく、キーノート・スピーチはニューヨーク市スモール・ビジネス・サービス局副長官から。セミナーの内容は芸術関連の事業各種の他に、融資等のスタートアップの為の借入金融の可能性、マーケティング等多岐に渡る。
この成功で、資本融資やテクニカル・アシスタンス等を含む総合的な経営支援プログラム「アーツ・ビジネス・イニシアティブ」が誕生した。 “シードコ・モデル”とも呼べる@ワークショプ、A事業企画への小額助成、B融資による比較的大口の融資によるキャパシティ支援を応用、単にギフト・ショップを始める、という手の個々の芸術団体の事業展開で終わるのでなくで、その先にダウンタウンにおける雇用の創出も睨み、コミュニティの芸術的そして経済的活性化を目指す。
企画担当のシードコのサラ・アイジンガー氏は「社会起業で新たな資金源を得る時代が来た」と言う。昔の移民の長屋形式アパート(テナメント)生活を紹介するローアー・イーストサイド・テナメント美術館Lower East Side Tenement Museumはその好例だろう。この美術館のある場所は、かつては危険と言われていたマンハッタンの西南の地域。しかし、テロ直後にシードコからの融資を受け、コロンビア・ビジネススクールの学生による事業プラン作成プロジェクト、観客へのツアーや情報サービス、障害者の教育プログラム等ミッションに基づく事業を展開、同時に経営の経験豊かなスタッフを雇い、チケットの売り上げも上げて確実に収入を伸ばしている。「団体全体のカルチャーが変わった」とその副社長、ルネ・エプス氏は言う。「単に収入だけでなく、キャパシティが上がって全体の雰囲気がとてもポジティブなった」と。
多くの芸術団体にとっては、しかし未だ“未知の分野”である社会的事業。2004年5月に開かれたファウンデーション・センターで開かれた社会起業関連セミナーでも「事業を立ち上げようとして、かえって団体内で軋轢が起き,負債も増加した」という声が多かった。しかし寄付や助成だけに頼ってきたニューヨークの多くの芸術団体が不況、低金利で助成先を失い資金難に苦しむ一方、テナメント美術館戦略的な事業で生き延びる団体もいる。「アーツ・ビジネス・イニシアティブ」によって、彼らの経営が安定し、同時にアートの街ニューヨークらしい芸術団体の社会起業事例が次々に生まれる事に、是非期待したい。
posted by CAC at 20:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 財団・支援と社会起業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
playboy purple
Posted by 眼鏡 オークリー at 2013年09月10日 09:32
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