2005年05月26日

■ こんなNPOってあり?第4回目

澤村明  新潟大学経済学部
1.前回以後の不正NPO記事など
 さて,前回の記事掲載後にも,いくつかNPOの不正がマスコミに取り上げられたが,認証取消に至った事例が二つ,報道されている。

《事例1》
 2005年3月7日付・時事通信ニュース速報「国際交流のNPO法人、認証取り消し=活動報告を3年超未提出−内閣府」
 内閣府は7日、東京と神奈川県鎌倉市に拠点を持つ特定非営利活動法人(NPO法人)「NPO国際交流促進協会」の法人認証を4日付で取り消したと発表した。法律で策定を義務付けている活動内容の報告書を3年以上提出していないため。

《事例2》
 2005年3月23日付・時事通信ニュース速報「『やまびこ会』のNPO法人認証抹消=改善命令に答えず−内閣府」
 内閣府は23日、聴覚障害者への福祉情報提供などを設立目的に掲げる特定非営利活動法人(NPO法人)「やまびこ会」(東京都新宿区)の法人認証を同日付で取り消したと発表した。定款に記載していないキノコの霊芝(れいし)栽培・販売や絵画の競売事業を一切行わないことなどを求める改善命令を1月に出したが、団体から回答がなかったため。内閣府が不正行為などを理由に法人認証を抹消したのは計7団体となった。

今回は,こうしたNPOの不正が日本だけのことではないだろう,他の国ではどうなのか,ということから,国際NPO/NGO学会(International Society of Third-sector Research=ISTR)の論文を紹介する。

2.ギーベルマン&ゲルマン論文の紹介
 管見の限り,ISTRの論文誌であるボランタス誌(Voluntas)に載せられた,「非常に公共的なスキャンダル−困っている非政府組織」(Margaret Gibelman & Sheldon R. Gelman [2001]'Very Public Scandals: Nongovernmental Organizations in Trouble,' Voluntas Vol. 12, No. 1, pp. 49-66)という論文が,NPO/NGOの不正について論じた唯一の論文である。この論文では,1998年から2000年のアメリカ合衆国と世界でのNGO不正について,各種報道から検索している(データベースとして,Lexis-NexisとProQuestを利用)。このテーマを主とした論文は,このギーベルマン&ゲルマン論文の参考文献にも見当たらないし,他に探した限りではNPO/NGOのガバナンスで不正について触れている程度のようだ。ここではNPOとNGOの厳密な区別は無用であろうし,実際のところ違いは大きくないので,この論文を紹介する。団体名などの訳語は仮のものなので,精確なところを御存知なかたがおいでだったら,御教示賜りたい。
 この論文が対象とする1998年以前の著名な例として,アメリカのユナイテッド・ウェイの代表であるW.アラモニーの「御乱行」…別荘を買い,リムジンに乗り,コンコルドで出張…は2年の調査を経て連邦審で懲役7年となった。この事件は市民セクターでは有名だが,この手の話はアメリカではゴロゴロしているらしく,他の事例と並べて『財界にっぽん』誌でも簡単に紹介されている(http://www2.tba.t-com.ne.jp/dappan/fujiwara/article/nichibei.html)。
 他にアメリカで有名な事例として,全国有色人種進出協会(National Association for the Advancement of Colored people = NAACP)の89才になる執行役員が,自身の性差別裁判にNAACPの資金を注ぎ込んで380万ドルの損失になったとか,アメリカ・パーキンソン病協会をカリスマ的に率いていた代表が7年以上にわたって100万ドル以上の横領を働いたとか(本人は「似たような基金の執行役員の半分ぐらいしか給料を貰えなかったからだ」と嘯いた由),これら2例が挙げられている。
 さて,ギーベルマン&ゲルマンの調査のうち,世界編では,1998年から2000までの不正として,13件が挙げられている。金銭以外ではセクハラが1件のみで,ほとんどは金銭がらみである。横領が2件のほか,詐欺,架空請求,窃盗,偽造,賄賂,脱税,寄附のピンハネ…と一通り揃っているが,投資失敗(弁償したとなっている)というのは不正と考えてよいのか疑問である。13件のうち監獄行きが三つ,自殺1,自殺未遂1となかなか悲劇的である。
 これらの中で二つが特筆されている。一つはフランスの癌研究協会(Association for Cancer Research)のケースで,元代表で代表的ファンドレイザーであった人物が寄附を不正利用してリビエラで贅沢に暮らしていたという。1996年に馘首され,横領,偽造,詐欺の罪で訴えられたのだが,彼はこの協会を30年以上にわたって率いた中で20年以上は不正をやっていたらしい。1999年,政府に財産を差し押さえられて,手首を切って自殺を図ったが果たせず,5年の刑となった。
 もう1件は南アフリカの平和正義基金(Foundation for Peace and Justice)。子供基金のために貯めてあった50万ドル以上の寄附金から,この基金の代表と会計責任者が詐欺9回と窃盗21回を働いたという。代表,会計責任者ともに6年の刑。
 13件中「賄賂」というのは,ドイツのバイエルン赤十字が製薬会社からの買い上げ価格をわざと高値にするかわりに賄賂を受け取っていたという。
 次にアメリカの事例収集である。10件がリストアップされている。窃盗,陰謀,投資失敗,詐欺,管理失敗と利益背反,横領,マネーロンダリング,組織的横領。全てが金銭がらみであるが,まさかセクハラなどがなかったとは思えないから,たまたまこの3年間に報道されたものでは,という限定条件で見るべきだろう。結果は自殺1,懲役・罰金1。アメリカのほうが犯罪に大らかということではなく,ニュースソースとなった報道時点で決着が着いていなかったのではないだろうか。
 特筆されているのは,まずハワイのビショップ・エステート(Bernice Pauahi Bishop Estate)で,これはハワイ児童に教育を施すために1884年に設立された不動産運用基金であり,ここの理事会が運用益をロビー活動などに不正流用したり,身内に有利な契約を結んだり,従業員を私的に働かせたり…その他諸々の不正をしたとして告発されている。結果,1999年に裁判所から4人の理事を解雇させられることになったが,この基金は寄附控除を維持するために連邦政府に900万ドルを納付しなければならなくなり,追放された理事たちも500万ドルの弁償金が課せられている。「大金は不正のインセンティブ」と評されているが,理事会メンバーの入替に失敗すると,不正の温床になると認識されている。
 二つ目のビッグ・イシューは,カリフォルニア州サンタクララのグッドウィル・インダストリー(Goodwill Industries of Santa Clala County=国際的な障碍者雇用促進NGO)の組織的横領である。25年近く,数人のスタッフが,寄贈された衣服を横流しするなどして1500万ドル以上を着服していた。CEOは告発の対象とならなかったが,摘発された一人は自殺,あるスタッフは自宅とオフィスから40万ドル以上の現金隠匿が発見されたほか,不正で1万ドル以上を預金していたスタッフ夫妻もいたという。
 三つ目としては,プエルトリコ組織連合(Federation of Puerto Rican Organizations)である。日本で言えばニートのような青年層に住居を提供しているニューヨークのNGOであるが,ここの執行役員と事務局長(だろう,controller)とが横領とマネーロンダリングで200万ドル以上の損失を与えたとされている(結末は不明)。

3.「ガバナンスの問題」か?
 ギーベルマン&ゲルマン論文は,こうした事例を紹介・分析した上で,「ガバナンスの問題」「矯正活動」という章を設けている。
 彼らによれば,この論文で紹介したような事例は何年にもわたって見破られておらず,そこには適切な監督や説明責任メカニズムの欠如がある,という。それはガバナンスの問題であるとして次の9点を挙げている。1)監督行為の失敗,2)不適切な権限委譲,3)資産管理の放棄,4)「正しい疑問」を訊くことの失敗,5)理事の無交替,6)CEOの監督欠如,7)組織内部コントロールの失敗,8)手順や実践における「チェックとバランス」の不在,9)理事会が,従業員・プログラム・顧客から孤立していること。
 そしてこれらは,基本的に理事会とCEOなど執行部との関係に原因がある,としている。こうした問題が企業や政府と異なり,NPO/NGOで大きな問題となるのは,NPO/NGOが,その活動資金の獲得に際して「公共的な信用」に拠っているからであり,この論文で紹介したようなスキャンダルが明るみに出ると,その信用を失い,資金獲得に苦労するからだ,と論じている。たとえばユナイテッド・ウェイの場合は1992年に不正が明るみに出たところ,ファンドレイズが4%減り,その後数年間,1991年の資金レベルを下回ったという。
 その他,一部の国のNGOではこうした問題に対応して,政府からの助成金などを得ることで会計検査も受け,透明性を確保するところもあるとか,アメリカはNGOの不正という経験を経たが他の国では判らない,そもそも文化慣習が異なれば対応も違うだろう,いずれにせよ,ウォッチドッグや政府による監督,NGO内部の運営手順など様々な対応が必要ではないか,と論じている。
 そして「矯正活動」と題する章では,対策として四つの必要性を挙げている。1)理事会の責任を明確にすること,2)詐欺などの可能性を排除するような内部コントロールの確立と維持,3)理事会の成長,4)より良いスタッフが必要であるなら,それに見合った理事として,訓練を受け参加してくれるような新しい人材,である。
 もっとも,「数個の腐ったリンゴが樽全体を駄目にする」ように,大多数のNPO/NGOが真面目にやっていても,スキャンダルが生じれば業界全体のダメージとなる。政府の規制強化とか,独立系ウォッチドッグの監視強化も避けがたいところであろうとする(アメリカのNational Charities Information BureauとイギリスのCharity Commisionが例示されている=本論では,主としてダメージによる寄附減少をテーマとしているからであろう)。
 本論文は,著者の専門性から,ガバナンスの問題として論じられているし,また事例が日本の特定非営利活動法人と異なり,大組織のNGO/NPOによる「巨悪」であるために,議論としてシックリこないところもある。次回,本論文への疑問から入り,日本の不正NPOにどう対処すべきかについて,筆者なりの見解を示して,本稿は終わりとしたい。
posted by CAC at 20:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 市民・NPOと社会起業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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