2004年07月25日

「ソーシャル・イノベーション」とは?
−信頼と信念を基本に

大西たまき

 昨年10月、ジョーン・クロック(享年75歳)の死去は全米で大きな話題となった。彼女がマクドナルドの創始者レイモンド・クロックの未亡人というだけが理由ではない。19.1億ドルにものぼる彼女の総遺産が、NPR(全米公共ラジオ放送)、ノートルダム大学など10団体に振り分けられることとなり、そのうちの8割にあたる15億ドルがサルベーション・アーミー(救世軍)に寄付されたからだ。当然これは昨年度の米国個人寄付の中で最高額だった。(第2位は、デルコンピューター会長兼CEO、マイケル・デルの6.4億ドル)

 平和、教育、ホームレス対策、ヘルスケアに関心の高かった彼女の遺志で、サルベーション・アーミーへの寄付は、全米25余カ所でのコミュニティ・センター設立や管理に使われる。1878年英国人ウイリアム・ブースが創始したこの団体は、キリスト教精神と人類愛に基づき、世界各地を拠点に貧困層、災害被害者、ホームレスらの救援活動を展開しているが、米国ではNGOというよりも古典的な福祉団体としての色が強い。担当者によれば、未亡人の寄付理由は「団体を心から信頼していたから」。夫もサルベーション・アーミーで長くボランティアをしており(なんとコーヒーとハンバーガーの配達!)、夫妻の極めて個人的な信頼感情がマクドナルド総資産の行く末を決定したことになる。
 ジョーン・クロックが他界する少し前の昨年4月に、米フィランソロピー界で注目を集めたもう一人の人物がいる。インターネット競売大手、イーベイの初代社長であるジェフリー・スコールが、ファンドレイジング・プロフェッショナル協会からその年「最も貢献したフィランソロピスト」として表彰されたのだ。エンジニアの学位も持つこのスタンフォード大MBA出身者は、イーベイ財団設立に貢献した後38歳の若さで会社を辞め、自身の財団を1999年に創立。このスコール財団は現在全米で125位の資産額を有し、社会起業を焦点に、アショカ、PBS(全米公共テレビ放送)オレゴン局、オックスフォード大学など革新的アイデアを持つ組織を支援してきた。その助成決定には、「“投資”された時間と資金を超えるリターンを得るベンチャー・フィランソロピー」というスコール自身の考えが強く反映されているが、原点は「貧困など社会の悪弊を解決したい」という子供の頃からの彼の信念。20年以上も温められた想いが、世界中の社会起業家を見守っているのである。

               ◇

 前置きが長くなったが、この2人の話を持ちだしたのは、トレンディにも響く「ソーシャル・イノベーション」の定義を考えるにあたって、原点に戻ってみたかったからだ。クロックの古典的チャリティ団体への遺産寄付と、スコールの起業家活動を支援するベンチャー・フィランソロピーは対極とも言えるアプローチだが、その基本は「信用」「信念」、つまり「信じる」という余りにも素朴な感情で共通する。

 元来、ソーシャル・イノベーションの定義とは難題だ。インターネットなど技術革新による社会的変化をソーシャル・イノベーションとみなす人もいる。日本語に訳すと「社会革新」ともなるこの言葉、ウン年前には口にするだけで「マルキシストか学生運動家か」と奇怪な目で見られたものだ。「ソーシャル」が、社会主義という思想的意味から「社会のため」という概念的意味をより色濃くした現在、「社会のために何かしたい」という言葉が若者の口からなんと自然に流れてくることか。

 私は、ソーシャル・イノベーションを「パブリック・グッド(公共善)の増進に向かう変化、およびそれをもたらすべく行動」とみなしている。その担い手はNPO・NGO、社会起業家など様々であり現象も多様だが、1)アテンション(Attention:注意、問題喚起)、2)アセッツ(Assets:資産、スキルなどの人的資産も含む)、3)アビリティ(Ability:手腕、能力)、4)オルトゥギャザー(Altogether:協働)、5)アクション(Action:行動力)、6)アカウンタビリティ(Accountability:信憑性と責任)という6つのAを有機的に働かせることにより、革新的な変化がもたらし得ると考える。

 そして、このソーシャル・イノベーションを完結し得る基本が「信頼」「信念」である。その問題喚起(アテンション)が社会に前向きな変化をもたらすという「信念」から、人は行動(アクション)を起こす。行動主体のNPOがイノベーションを起こし得るに十分な資産(アセッツ)と能力(アビリティ)を有すると、「信頼」を獲得し支援がくる。どんなに資産(アセッツ)や有能(アビリティ)なスタッフを持とうとも、アカウンタビリティが欠如すれば「信頼」を失い、活動資金の道も途絶えることになる。ネイチャー・コンサバンシーやユナイテッド・ウェイなど大手NPOが近年経営上の不祥事を起こし、信用と寄付者を失って奪回に苦しんでいる姿を見れば明らかだ。

 ソーシャル・イノベーションという言葉がより広く認知され、一層多くの人々がかかわり、いかなる革新的企画が提案されようと、「信頼」「信念」という素朴な原点を忘れては真のイノベーションは達成されないことを、私たちは肝に銘じておく必要があるだろう。
posted by CAC at 12:36| Comment(1) | TrackBack(1) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by 洋服通? at 2013年07月27日 17:58
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