2004年07月25日

まちづくりの主役「社会起業家」の支援を考える

@女性自立支援ネットワーク「コペル」
服部 篤子 跡見学園女子大学・お茶の水女子大学・明治学院大学 非常勤講師

 社会起業家という言葉に注目が集まっている。一般に、社会の課題を事業を通じて解決する人々、あるいはその起業家精神を指すことが多い。米国の研究者はその代表として、ナイチンゲール、マイクロクレジットのグラミンバンク創設者であるモハメッド・ユナス、児童教育のマリア・モンテッソーリらを挙げる。偉大な実績を残す彼らに与えられた社会起業家という言葉。日本では、どのような人々をさすのであろうか。彼らはどういう影響を及ぼすことができるのか、CAC−社会起業家研究ネットワークでは、事例を取り上げることから始めた。その研究結果から、社会起業家は必ずしも伝説的な人物ではなく、もっと身近な存在だということがわかった。
 私は、社会起業家は「市民のリーダー」であり、地域づくりの主役だと考えるようになった。5月に開催された「ふるさとづくりシンポジウム2004」の基調講演で、脚本家のジェームス三木さんはまちづくりの主役についてこう言及している。「主役とはどういうものか。ドラマでは条件が二つある。一つはトラブル解決能力を持っていること。もう一つは、人生を持っていることだ。人生というのは、個人の文化の集積だ」。社会起業家の特徴とジェームス三木さんが言う主役の条件は、まさに一致するのではないだろうか。問題解決能力という「社会性」と、人生つまり社会起業家の哲学と夢が、彼らのミッション(使命)を推し進めていくのである。そして、「ソーシャル・イノベーション」を起こす。社会起業家が社会に与えるインパクト(影響)自体がイノベーションだと私は考えるようになった。

 すでに欧米では、こうしたソーシャル・イノベーションを起こす人々を支援する組織が存在する。米国のアショカは、社会起業家に着目することこそ地域の変革につながると考えた。一般的議論では、社会起業家の活動成果として経済的な側面を重視するきらいがある。アショカは成果・実績をことさらに強調するのではなく、社会起業家の活躍そのものに意義を見出してきたそうだ。社会起業家をグローバルなコンサルティング企業に研修に送るなど、人材の育成に取り組んでいる。アショカの地域変革への熱意が、多くの社会起業家の輩出に結び付いている。

 この連載では、「ソーシャル・イノベーション」を通して、まちづくりの主役−社会起業家を支える側に焦点をあてて、その活動内容や社会的意義を紹介していく。社会起業家の活動を推進する仕組み、望ましい制度などを考える機会をつくりたいからである。

               ◇

 初回は、「特定非営利活動法人コペル」を紹介したい。コペルは02年に設立された女性の自立を総合的に支援するネットワークである。

 コペルの代表と「コペルネット株式会社」の代表取締役を兼務する上條茉莉子さんは、日本IBMに長年勤めていた。無我夢中で過ごした子育て期のピークを越えたころに人事権を持つ管理職となって、企業の仕組みがはっきり見えてきた。実力があっても辞めていく女性たちを見て、彼女たちにはもちろん、企業や社会にとっても損失だと思った。女性が働き続けられる職場環境にするため、育児休業などの解決策を提案してきた。その後、神奈川県男女共同参画推進審議会会長を務め、さらに「われわれの神奈川を考える会」を結成、行政と市民の協働について提言を行うなど、幅広い視点からも女性の支援に力を注いできた。

 コペルは、「働く場での平等、つまり実力を発揮し正当に処遇されることが、あらゆる場での平等推進の根本だ」という考え方のもと、起業や自立を目指す女性に「売れるスキル」を身に着けてもらうための研修や実習を実施している。研修は、起業入門セミナー、実践セミナー、起業スキルを極めるポイントセミナーなど、段階的に学べるように工夫されている。例えば、コンピューターといっても単にワードやエクセルなどの基本を学ぶだけでなく、ウェブページの作成や、インターネット・テレビ局を開設し配信するコンテンツの制作を行うなど、高度な技術しかも確実に需要の見込める分野への人材を育成しようとしている。

 やる気のある女性が集まっても、従来の研修では自立に十分なスキルを習得することはできなかった。多くの女性は仕事といっても補助業務しかやってこなかったし、営業や管理の実務経験がない。上條さんは「経験こそスキルを身につけるために必要なこと」の信念から、実際の仕事を受注し女性たちが仕事や起業を実践する「起業実験工房」をつくった。実験工房には、サーバーなどIT設備が整った「インキュベーションルーム」があり、会議や教室を開くレンタルスペースを持っている。セミナーの受講から、実習、OJT(実際の仕事でのトレーニング)、起業の開始へと、一貫したサポートが受けられる。

 上條さん自身がコペルを立ち上げ、女性のエンパワーメントを目指して活躍する社会起業家である。日本でもビジネスで成功し、寄付や財団設立など資金面で社会に貢献する人々は少なくない。しかし彼女のように、起業家が将来の起業家を育てることで、社会的な影響は何倍にも大きくなるのだ。

posted by CAC at 12:27| Comment(0) | TrackBack(1) | 財団・支援と社会起業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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