2004年07月25日

ソーシャル・キャピタル考

@ソーシャル・キャピタルとは「つながり」である
新谷 大輔(三井物産戦略研究所研究員)

 「ソーシャル・キャピタル」(社会資本)という言葉が、にわかに注目を浴びている。この考え方自体は、決して新しいものではない。それは人間の生活の営みが開始されたときから生み出されてきたものであり、それがなければ人間は生きていくことさえ難しい。

 ソーシャル・キャピタルとは一言で述べるならば、「つながり」である。様々な学者がこれまで定義づけているが、最も広い意味で考えれば、それは人と人、人と企業といったような様々なつながりを意味する。そして、そのつながりから生み出される「資産」、たとえば人と人のつながりでいえば人脈、人と企業のつながりでいえば従業員が持つ企業に対する帰属性や愛着といったものが、その組織を構成するために重要な資本(キャピタル)となる。また、企業やNPOなどの組織体は、NPOであれば公益のために、企業であれば利潤のために構成員が協力し合いながら、ひとつの目的を達成しようとする。組織が産み出す収益や社会への影響は、ソーシャル・キャピタルが作用した結果と考えることができる。
 そもそも、ソーシャル・キャピタルの議論が近年語られるようになったのは、米政治学者ロバート・パットナムの研究によるところが大きい。パットナムは、1970年代に実施された地方制度改革以降のイタリア20州の20年間にわたる州政府の制度パフォーマンスを調査した。その結果、地域の市民度(国民投票への参加度、新聞購読率、団体結社数などの指標から合成した「市民共同体指数」を利用)の差が違いを生み出していることを明らかにした。上位下達の垂直的なネットワークに縛られ、社会に対する信頼が低く、疎外感に覆われた南部地域では、制度の効率が悪く腐敗も横行している。これに対し、水平的なネットワークが広がり、社会への信頼が高く、連帯・参加の価値観が根付き、市民団体への参加も高い北部では、効果的な制度が存在することを提示した。

 パットナムはこの研究の成果として、信頼に基づいた水平なネットワークの広がりをソーシャル・キャピタルと名付け、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」と定義付けた。パットナムはさらに米各州の包括的なデータから、コミュニティにおいて政治、市民団体、宗教団体、労働組合、専門組織、社交などに対する市民の参加が減少していることを実証し、ソーシャル・キャピタルが衰退していることを指摘した。地域のクラブには加入せず、一人で黙々とボーリングなどをしている孤独な米国人の姿が、彼の国のソーシャル・キャピタルの状況を象徴しているとした。

 この分析は、重要な示唆を含んでいる。彼の考え方では、つながりを醸成する組織体をソーシャル・キャピタルとしており、この言葉が意味する範囲が限定的に捉えられている。しかし、ソーシャル・キャピタルを構成する要素として、「信頼、規範、ネットワーク」という3つを挙げていることは、「どのような「つながり」が構築されるか」ということが、良い効果を生み出すのに重要であることを示している。彼のいうソーシャル・キャピタルは、単なるつながりではなく、つながりが生み出す資本が社会の効率性を改善するという意味であり、この3要件はそれを最大化するための条件である。

 人間は社会生活において、様々な場面で「つながり」を作りながら生活している。それは家族、恋人、友達といったパーソナルな関係もあれば、企業内での上司と部下の関係、市町村における首長と住民の関係のような公的なものまで、社会は複雑に張り巡らされたつながりで構成されている。インターネットの発達はつながり作りの新たな手段として成長し、直接に顔を合わせたことのない関係であっても、オンライン上でつながりが創造されるケースも少なくない。オンラインだけのつながりの場合、上記の3要素に適ったソーシャル・キャピタルは生まれにくいだろうが、ソーシャル・キャピタルを醸成するきっかけとなることは大いにあるだろう。

 その一方で、パットナムが指摘したようにつながりが希薄になる現象も生じている。日本でも社会との接点を持つことが苦手だったり、接点をもつこと自体を拒絶したりする人々が増加している。信頼関係で結ばれた深いつながりを持つことにも、一方で孤独になることにも恐れを感じ、浅いつながりだけを求める若者が増加しているともいう。

 人間関係の希薄な現代社会における、ソーシャル・キャピタルという概念の可能性と効果を、「信頼、規範、ネットワーク」をキーワードに、次号以降で考えていきたい。
posted by CAC at 12:01| Comment(1) | TrackBack(2) | 市民・NPOと社会起業家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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本レポートを寄稿致しました新谷と申します。当方の研究サイトも同時にご参照下さい。宜しくお願い致します。
Posted by 新谷大輔 at 2004年07月29日 15:51
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