2006年11月15日

<No.8> ビジネスと社会価値のバランス

服部篤子

 ジョージ・ソロスは、著書『ソロスの資本主義改革論』で、「市場価値と社会価値の関係は、容易に解明されるものではない。問題は、両者の間に違いがあることを立証することではない。いかなるときに一方を指針とすべきか、またいかなる時に別の一方を指針とすべきかを判断することである。」と言っている。
 近年、企業、特にグローバル企業は、ステークホルダーを地域やNGOを含めた多様な層でとらえる傾向にあり、環境問題をはじめとする、社会の問題の解決に取り組むなど、「社会との関係」を強化するようになってきた。この情景には、企業の不祥事が相次ぐ中、世界のNGOが企業の動向に目を光らせ、問題があると世界に発信し、その影響力が無視できない状況がある。企業にとっては守りの姿勢という消極的な要因とはいえ、企業は、「社会的な価値」を高める姿勢が一層顕著になってきた。
 この潮流は、社会性と経済性、両者のバランスをとることを目指す社会起業家の支援を考える上で有益である。そこで、今回は、まず、「社会価値」という言葉に着目した。新たに企業の価値基準を見出している金融の専門家は、広範囲で用いられる社会性や社会価値について、どのようにとらえているのか、ヒヤリングした内容を以下に紹介したい。(2006年6月実施)

@環境配慮型経営と人材育成

 政府系金融機関である日本政策投資銀行(以下DBJ)は、2004年、融資を行う際、環境に配慮する度合いを評価して企業をスクリーニングする手法を導入した。「環境配慮型経営促進事業」と呼ばれる制度は、世界初のスキームだそうである。 この環境格付は、個別のプロジェクト単位ではなく、「企業経営そのものの環境に対する姿勢」を問うもので、120項目もの質問を用意している。例えば、リスクマネジメントや情報開示、ネットワークなどガバナンスに関するもの、サプライチェーンにおける環境配慮、使用済み製品リサイクルなど事業活動に関するもの、さらに、地球温暖化対策や水資源対策などパフォーマンスに関連する事項から成る。ここに一つ、企業の経営価値を測定する手法を見出すことができる。

 DBJの2004年度の環境に関する融資額は100件、926億円であった。うち、本制度を通じた融資実績は、32件、400億円。1件10億円程度のものであり、主として中堅企業が対象。設備に対する融資である。融資を受けた企業は、他の金融機関からも融資(協調融資)が得られるように、波及効果が高いそうだ。

 企画政策部長の古宮氏は、環境経営を支援することについて以下のように説明した。我々は、「環境のリスクに対して、企業全体が対処できる体制になっているかどうか(企業のサスティナビリティ)、を判断することができる。技術的な視点ではない。本事業を通じて、融資につながった場合、政策金利が適用される。企業の社会的責任活動を金融面からサポートしている、と言えるだろう。これは、『新たなお金の回し方』であり、つまり金融機関にとってのCSRだと言える。CSRとは、企業のメリットだけではなく、地域全体にメリットがある活動だと考えているからだ。」。

 さらに、古宮氏は、社会に影響を及ぼす「個人」について語った。「個人が公共性を高めると、社会の起爆剤となる。公共性を高めるとは、例えば、エコファンドのように、環境的価値が高い企業に対する投資に、リターンが少なくても投じようとする個人が増加していることに顕れている。企業は、従業員を雇用し養うだけではなく、その後、彼らがどこへ行っても役に立つよう、社会的に育てることが重要かつ必要となってきたと思う。」と。企業の価値を、企業がどのような人材を育てることができるか、「人間的、社会的資本」に見出していた。

A運動を支える金融機関と顔の見える関係

 次に、非営利セクターの支援を推進している中央労働金庫を訪ねた。中央労働金庫は、協同組合型金融機関であり、「運動性のある金融機関、運動を支えるための金融機関」として誕生。労働金庫法(1953年制定)に基づき、営利団体に貸付を行っていない。第5条に、「金庫は営利目的としてその事業を行ってはならない」と明記している。つまり、貸付の対象は、個人あるいは、NPO法人のみである。

 NPO法人に対しては13億円融資実績があり、主として、運転資金(500万円の無担保)、設備資金(5000万円の有担保)、つなぎ融資資金を貸し付けるそうだ。開業資金融資はその審査ノウハウがないため行わず、「社会貢献ファンド」を2002年設立し、助成制度の中で支援することにした。 

 このような特徴のある民間金融機関において、NPO推進次長の山口氏は、 「社会性とは、広く利益が行き渡る活動、かつ、顔の見える関係だと考える。市民主導の『新しいお金の回し方』が根付くように取り組んでいきたい。」と語った。

 例えば、市民の寄付を得てファンドを形成するコミュニティ・ファンドも新しいお金の回し方である。小規模ではあるが、NPOや市民活動への融資を目的に設立される「NPOバンク」のように、市民主導のコミュニティ・ファンドは、出資者と事業者の関係を大切にしてきた。社会資本を強化するしくみとしても期待されている。対して、行政主導の場合、ファンドは、市民が自治体に寄付することとなり、結果として寄付控除が得られるというメリットがある。しかし、出資者と事業者には距離が感じられる、という。

 さらに、制度融資では、神奈川県の場合、コミュニティビジネス支援の一環でNPO法人に融資をする制度「コミュニティビジネス支援NPO法人融資」を2005年より実施している。県が認定した法人に神奈川県信用協会が保証し、金融機関が貸し付けるものであり、リスクは県が負うという珍しい制度である。しかし、「失敗しても行政が保証するため、当人の緊張感が緩みはしないだろうか、モラルハザードがおきないだろうか、」という一面がある。

 環境配慮型経営促進事業も、NPOバンクも「新しいお金の回し方」だと捉えている点、さらに、社会的な価値創造には社会的資本が重要である、という点に共通認識を聞くことができた。ビジネスと社会価値のバランスを積極的にとる事業や、社会的な事業を推進することは、既存の行政のしくみ、社会経済のしくみから一歩飛び出すものが必要かもしれない。

 ワールド・エコノミック・フォーラム(ダボス会議)を開催するクラウス・シュワブは、持続可能な資本主義への糸口は、「適正利潤 (reasonable profit) の追求」だと唱えた。さらに、「資本主義は、経済資本だけでなく、人間的そして、社会的資本によって定義されるべきだ」と言っている。企業の規模の相違に関わらず、今、新たな価値基準が必要とされている。そのための新たなしくみ、つまり、文化の創造が求められているのではないだろうか。
posted by CAC at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。