2006年11月15日

<NO.8> 社会を変える力 ―国際協力の現場から見る「ソーシャル・イノベーション」― Aネパールの山奥で起こる波

岡市 志奈

ノーベル平和賞が、バングラデシュのグラミン銀行とムハマド・ユヌス氏に贈られることが決まった!同氏は、小さなチャンスさえあれば農村女性も貧しい生活から脱却できると確信し、民間銀行の「常識」を覆す無担保小規模融資の仕組みを生み出した。今では、世界各地でこの仕組みが活用されており、国際協力の分野では最大のソーシャル・イノベーションといえる。貧困の悪循環から脱出するのが難しい途上国だからこそ、より大胆なソーシャル・イノベーションが必要とされているのかもしれない。今回は、ネパールの山村で起こっている変化を紹介したい。

ちょうど8年前の夏。(特活)ヒマラヤ保全協会のインターンとして、森林保全プロジェクトの進捗状況を確認するため、活動現場であるネパール中西部の山村を歩き回った。私がまず目指した村は、標高2200mに位置するナンギ村。チベット・ビルマ語系のマガール族、125戸から成る。農業(トウモロコシ、ヒエ、ジャガイモ、小麦などの栽培)が主な生計手段であるが、現金収入を得るために村の男性の多くが海外に出稼ぎに出ている。当時、村には電気もなく、水は共同水栓まで汲みに行く。車のアクセスがある町から村までは、村人の足では登り6時間かかる(私は10時間かかったが・・)。 

周辺のマガール族の村も同じような様子である。しかし、ナンギ村には他の村と違うものがある。それは高校だ。日本の場合、学校建設や教師の配置などは政府の管轄であるが、ネパールではアクセスの悪い村ほど行政サービスが届きにくい。そこで、NGOなどが小学校の建設費を負担するというケースもよく見られる。ナンギ村周辺の村には小学校がようやくでき、子供たちは自分の村の小学校に行けるようになった。しかし中学校はまだ少なく、高校がある山村は皆無といっていい。

村に高校があるということだけでもすごい状況だが、さらにすごいのは、コンピュータ室、視聴覚教室、図書室、保健室、寄宿舎、電話、発電機まで揃っていることだ。コンピュータや図書はほとんど海外からの寄付であり、村人が担いできたものだ。

この高校を作った立役者は、モハビール・プン氏。ナンギ村出身だが、子供の頃に家族と共に村を離れた。高校がなかったからだ。教育熱心な父親は、お金に苦労しながらもプン氏の学費を工面してくれた。この頃から、「村でも子供たちに勉強の機会を与えたい」とプン氏は強く思うようになる。アメリカ留学後に村に帰り、村人とともに高校作りを始めた。今ではその評判を聞き、町の子達までもやってくるという。高校と言えば遠い町の話。その「常識」を打ち破り、ネパールの山奥に町よりも立派な高校を作り出し、今も新しい試みを続けている。

この「常識」を覆す動きは、色々な形で地域に新たな変化をもたらしている。まず、他校の先生たちが集り、学校教育のあり方について話し合うようになった。現在は、教育委員会ができ、奨学金の支給なども行っている。協力者は、村人や学校の先生たちだけではなく、インターネットを通じて世界にも広がる。プン氏の活動をインターネットで知り、ナンギ村を訪ねてくる人もいる。中には、ボランティアとして学校の先生をする人もいる。山村でのユニークな活動として、BBCでも紹介された。また、先生の給与を捻出するため、アヒルの飼育や薬草栽培などの現金収入活動も始まり、同時に村人にも雇用機会を提供することになった。人や情報が行き交うことで、地域の活性化にも繋がっているのだ。

ここで、このような現象に至る要因を考えてみたい。第一に、明確な目標があること。プン氏の願いはただ1つ、「村でも子供たちに勉強の機会を与えたい」。このために必要な活動を地道に続けてきた。第二に、その目標が地域のニーズに合っていること。教育の必要性を村の人も認識していなければ、ここまで活動は広がらなかっただろう。第三に、強い信念を持っていること。プン氏は絶対にあきらめない。1つの方法がうまくいかなかった場合は、違う方法に挑戦するまで。彼の思いに引き寄せられてか、自然と協力者が集まった。第四に、豊富なアイデア。プン氏はアイデアマンだ。失敗した活動も数知れず。「アイデアは溢れ出るほどいっぱいあるので心配はない」という彼の言葉が忘れられない。最後に、インターネットの役割も大きいと言える。

現在、プン氏が取り組んでいるのは、ワイヤレス・ネットワークの設置。山向かいにある隣村ともすぐに情報交換ができる。先生が不足がちな学校には、ライブで授業を届けることが可能になる。そして次の目標は、大学を作ること。プン氏の挑戦は、まだまだ続く。


ナンギ村の学校情報:

http://www.himanchal.org

BBCでの活動紹介記事:

http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/1606580.stm

http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/3744075.stm

posted by CAC at 23:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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