2006年11月15日

<NO.8> 社会起業家の現代的役割

金田晃一

世界各国から約600名の参加者を集め、2006年3月29-31日、英国オックスフォード大学サイード・ビジネススクールにて、第3回“Skoll World Forum on Social Entrepreneurship”(スコール財団主催・社会起業家世界フォーラム、以降、「フォーラム」)が開催された。一般的に、社会起業家とは「社会システムへの変革を通じて、社会的課題を解決するために事業を行う人々」と定義されるが、本稿では、参加者の発言を軸に、社会起業家像、また、その現代的役割について考えてみたい。


●CSR推進企業
先ず、“Chief Entrepreneur”の肩書きでトップ・セッションのモデレーターを務めていた人物がSustainAbility社のJohn Elkington氏であったことに、社会起業家に対する欧州CSR界からの“期待めいたもの”を感じた。CSRのトレンド・セッターである彼は、「持続可能性の概念を市場メカニズムに統合する」必要性を主張し、そのプロセスにおいて、社会起業家にいくつかの役割を与えていた。CSRの推進には、図1に示すような5つの基本ルートがあるが、社会起業家との関わりでは、特にAとCのルートの活性化が期待できる。AはElkington氏の指摘に関わる「(社会起業家のアイデア等に触発され)社会・環境配慮型製品・サービスを市場投入する」ルート、Cは「自らの各種リソースを社会(起業家)に提供する」ルートである。CSR推進企業の間では、ProfitとReputationを同時に獲得するための競争が始まっている。

<図1:CSR推進モデル クリックすると大きくなります。>

8kaneda2pCSR推進モデル.png



●機関投資家
次に、そのElkington氏の対談相手が、元米国副大統領のAl Gore氏と元Goldman Sachs Asset Management CEOのJohn Blood氏であり、現在彼らは、長期投資運用を行うGeneration Investment Management (GIM)の会長と社長である点は注目に値する。Gore氏は、「光線のスペクトラム」の比喩を用いて、「企業投資の際には、可視光線(財務)のみならず赤外線や紫外線といった不可視光線(社会や環境)も考慮すべきである」と語り、「企業の『外部性』(外部経済・不経済とも)をエクイティ分析の枠組みに統合する」重要性を指摘した。2006年4月末には、国連グローバル・コンパクトと国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)の主導の下、GIMやCalPERS等の機関投資家や大和証券投資信託委託等の資産運用会社を含む約80社の賛同を得て、金融分野のCSR基準である「責任投資原則」が発効した。機関投資家は、企業の「外部性」に対する感性を磨くため、また、投資対象として、これまで以上に社会起業家の動向から目が離せなくなるだろう。

●開発援助機関
別セッションに登壇した世界銀行副総裁のIan Goldin氏は、貧困問題に対する社会起業家の功績と可能性に言及していたが、実際、マイクロファイナンス、識字教育、地雷原の浄化等、「人間の安全保障」分野での活躍が目立つ。他方、企業の側もCSRの観点から「BOP(Bottom of the Pyramid)」、即ち、低所得者層市場に参入し始めている。開発援助機関には、これらをミレニアム開発目標(MDGs)への追い風とし、「社会起業家のアイデアと企業のリソースを結合させる機会を作る」、「ODAの一部を社会起業家に振り分ける」等の施策の検討が望まれる。

●研究機関
フォーラムでは多数の研究機関が約30のワークショプで各々の研究を発表していたが、The Aspen Instituteは社会起業家を、その特徴的な志向や従来のセクター分類にチャレンジする意味合いを込めて、“The For-Benefit Organization”や“The Fourth Sector”と呼んでいた。今後は、このようなマクロ視点に加え、ミクロ視点での分析、特に、「個人のキャリア・生き方としての社会起業家研究」に期待したい。その結果、社会起業家精神を持つ人々が、市民セクターだけでなく、政府や企業内にも増えていけば、社会の持続可能性にプラスの影響を及ぼすだろう。因みに、政府や企業等の組織内で社会起業家精神を持って活動している人々はSocial Intrapreneursと呼ばれているようである。

●育成機関
1,750名以上の社会起業家を育成・輩出し、世界70カ国にネットワークを有する団体が米国のAshoka Foundationであり、元McKinsey&Company社のBill Drayton氏によって25年前に設立された。3日間のフォーラム終了後、Drayton氏と別途会談したが、「日本とドイツでは資金の問題もあり、Ashoka Foundationも社会起業家を輩出できていない」という。社会支援のあり方は、税制や寄付文化等に大きく影響を受けるが、政府・企業・市民が支える日本独自の「ドナー・アドバイズド・ファンド型・社会起業家支援基金」の設立は望めないだろうか。先ずは、「国際協力や人財活性」(政府)、「市場創造やCSR評価」(企業)、「貢献意欲やキャリア形成」(市民)といった各セクターのドナー・インタレストをぶつけ合うことが重要であろう。

●社会起業家
社会起業家の代表格であるマイクロファイナンスの父、グラミン銀行総裁のMuhammad Yunus氏は、壇上で“Need is first!”、先ず、社会的ニーズありき、という点を強調していた。逆に言えば、この発言は、特に、低所得者層の社会的ニーズに適した製品やサービスを提供することがいかに困難であったかを示すものとも言えよう。更に、「政府は唯一の公共サービス提供者」「企業の行動原理は専ら利益追求」、「NGOは反社会的で影響力も限定的」等のセクターに関する誤った認識が、セクター間協力による新しい社会システムを構想する際に不可欠な、自由で創造的な思考を妨げてきたように思える。しかし、その一方で、現実には、社会の持続可能性に対する危機感を背景に、政府はPPP(Public-Private Partnership)、企業はCSR、NGOはG-CAP/ホワイトバンドのようなグローバル・キャンペーンという形をとり、他セクターとの協働を求める共振運動を内部で起こし始めている。そこで社会起業家には、3つのセクターの特徴を部分的に併せ持つがゆえの高いコネクティビティを以って、各セクター内の共振運動を具体的なセクター間協力へと導く「ラストワンマイル」の役割を期待したい。

●信頼構築のPDCAサイクル
最後に、フォーラムに参加して痛感したことは、セクター間協力を持続させるには「信頼関係の構築」が不可欠という点であった。この構築プロセスを分析すると、図2のように、よく言われるPDCAサイクルとは異なる、「もう1つのPDCAサイクル」が見えてくる。政府、企業、市民、そして社会起業家のどのセクター間の場合でも、以下のステップを踏むことで、両者の信頼関係を強固なものにすることが可能となろう。

ステップ1.先ず、決めたこと、公言したことを「実行(Perform)」する
ステップ2.その内容を十分に「開示(Disclose)」する
ステップ3.特に重要な相手と十分に「対話(Communicate)」する
ステップ4.最後に、相手の意見に対して「理解・感謝(Appreciate)」する

<図2:信頼構築PDCAモデル クリックすると大きくなります。>

8kaneda3p信頼構築PDCA.gif



社会起業家とは、持続可能な社会の実現にあたり、「既存の3セクターによる“セクター然”とした対処では大きな進展が見られない」という危機感が生みだしたハイブリッドな創造物である。しかし、3セクターとの信頼関係と3セクターからの支援があってこそ機能する存在であることも同時に認識すべきである。

尚、フォーラムから半年経った2006年10月13日、Yunus氏の2006年ノーベル平和賞受賞のニュースが飛び込んできた。彼はその賞金の一部で低所得者層向けの栄養補助食品開発事業に乗り出すという。CSR先進企業であるフランスの食品大手ダノン社が事業パートナーだそうだが、これは、まさに図1のルートA、即ち、社会起業家がCSR推進企業に刺激を与えた典型事例と言えよう。今後も、このような社会起業家とCSR推進企業のパートナーシップ事例が、紙面を賑わすことに期待したい。
posted by CAC at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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