2006年11月15日

<NO.8> 地方都市におけるアートビジネスの可能性:前編 - 福岡・「アートをたずねる月」を例として -

高木崇雄
Gallery "Foucault++" 代表
アートをたずねる月事務局員


はじめに
 今、地方はアーティストを生み出しうる土壌となっているであろうか。そして地方が継続的にアーティストを育てていくためにはどのような要素が必要なのだろうか。また、地域活性化を目的として行われている様々なアート・イベントはどのような課題を抱えているのか。これらの要因を明らかにすることにより、地方都市において、他地域の経済圏に依拠することなく、アートという文化資本が地域に浸透することで産業として成立し、持続的発展を行うことの可能性について検討を行う。
 とくに、本稿では具体的な事例として、上記の課題を解決しつつアーティストを育てていくための地域作りを実現していこうとしている活動の一つとして、筆者が役員として参加し、毎年10月に福岡県全域で行われている「アートをたずねる月」というイベントを取り上げ、その成立経緯と具体的内容、そして現状の課題について明らかにしていく。

「アートをたずねる月」成立の経緯
 当初は、福岡市中央区近辺の珈琲店やギャラリーなど、7件の店舗が2003年に始めた小さな内輪のスタンプラリーから始まった。趣旨としても、福岡県在住のアーティストの経済的支援やギャラリーの売上の増加のため、普段からアートに対して興味をもつ店舗が相互の顧客を紹介し合い、顧客にも楽しんでもらうことで消費の目先を変えてもらえれば、というものであった。 このように、当初は簡単な内輪のイベントとして始まった「アートをたずねる月」であるが、いくつかの要素により、2004年より活動が広範囲に広まっていくこととなった。

 その一つは、中心となったメンバーが地元で従来からアートに関する活動を行ってきたことである。中心メンバーである事務局は、地元の自営業者を中心に10名弱で構成されている。それぞれの本来の職は「建築家兼アジアンレストランオーナー・珈琲店・ギャラリー・書家・イラストレーター・イベントプロダクション代表・工芸店」など多様である。彼らはそれぞれ福岡での商業活動の傍ら、個々の知人や顧客との関係を通じ、継続的にアートに関する企画を行ってきた。これらの活動を通じ、地元のみならず県外・海外のアーティストとの結びつきを深め、そして彼らの発表・展示意欲に対し、常に向き合ってきた。また、同時に、自営業者としての経営的側面からも「何がお客さんに求められているか」という課題を突きつけられてきた。こういった、「利益を出すためにトレンドを読む」バランス感覚を持っていることが、あくまで利益を確保できる場としてのイベントを成立させ、世代を超えて受け入れられる企画作りに役立っている。

 他の要素としては、福岡市の特徴である街のコンパクトさが挙げられる。福岡市は「九州の首都」として九州全域からの集客力を持ちながらも、中心となる商業圏が狭く纏まっている。そのため、天神という中心地以外の、大名、今泉、警固、薬院、春吉といった周辺地域においては地価が比較的安く、路面店だけでなくマンションの一室や倉庫跡などを改装し、若い個人が安価に店舗を持つことが可能である。結果、個性的な店舗が数多く存在している。これらの地理的要因も、活動の初期において相互の情報交換やコミュニティ醸成が容易に行えた原因につながっている。

 歴史的にみても、この都市のコンパクトさにより福岡市民は古くからコミュニティ意識が強く、歴史的資産かつ生活と密着した参加型の行事である博多祇園山笠や博多どんたく、放生会など、住民が積極的に作り上げるイベントやお祭りを好む地域であった。

 近年における具体的な例としては、地理的に近い上海や韓国などとの交流が盛んなことからうまれた、アジアとの文化交流を目的とした活動「アジアンマンス」や、イランやインドなどアジア諸国の映画を上映する「福岡アジア映画祭」、そして街中に設置したステージをインディーズと呼ばれる若いミュージシャンに提供する「ミュージックシティ天神」など、集客性の高い活動が継続的に行われていることが挙げられる。

 さらに、福岡という土地固有の美術的な影響力としては、「電力の鬼」と呼ばれ、近代の大茶人として知られる松永耳庵のコレクションが寄贈され、かつ近現代アートを多く収蔵している福岡市美術館や、その福岡市美術館の活動を元として、アジアの近現代美術を専門に扱うことを目的として1999年に設立された福岡アジア美術館、そして当時2005年の開館に向けて準備が進められていた九州国立博物館といった、企画に対して意欲的な公的アート施設や、三菱地所と西日本新聞のメセナ事業として現代美術専門に運営されているギャラリー「三菱地所アルティアム」といった国内外の他都市のアートシーンを反映するギャラリーの存在も大きい。無論、福岡県立美術館や福岡市総合博物館といったいわゆる「はこもの」ミュージアムにおいては、認知度が高く、資産としてすでに評価の確立された集客力のある作品を主に取り上げ、新聞社やテレビ局や広告代理店主導の巡回展ばかりが組まれている状況である。

 結果、地方で制作活動を行っている今から認知されていくべき若いアーティストにとっては発表の場が減少し、作品が評価される機会を失っており、これらの要因により生計を維持することが難しい状況となるという悪循環をもたらしている面も否定できない。しかし一方、前述したような「メインストリーム」であるアートに関し、意欲的な企画を組むミュージアムが存在することで、様々な企画に関して自由に比較を行いながら多面的なアートの楽しみ方を住民が受け入れる効果ももたらしている。

 このような地域の内外を越えた個々の活動に刺激を受け、福岡でアートに関してだけ地元のお祭りがないのはもったいないではないか、また、地方のアートシーンにこそインディーズのような存在は必要ではないか、といった考えがメンバーを介して多くの人に伝わり、アートをたずねる月の企画が受け入れられていった。  その結果、ギャラリー以外の飲食店や書店や銀行、病院や服飾店などの数多くの他業種が地元のアーティスト達と独自企画を組み、参加を申し込むようになった。また福岡市や北九州市といった都市圏だけではなく、うきは市吉井町や大川市などの従来商圏とは考えられてこなかった周辺地域からも地域ごとに複数店舗がグループを作った上で積極的な参加をするようになった。これにより、普段は交流の少ない県内地域同士での交流ならびに連携意識が促進されるという思わぬ効果もあらわれた。  また、公的な面を持つ施設であり、当初はメンバーに刺激を与える側の存在であった美術館も、学芸員と中心メンバーとの個人的な繋がりなどに端を発し、福岡市にある福岡アジア美術館や三菱地所アルティアム、また久留米市にある石橋美術館などがアートをたずねる月の期間に合わせた企画をもって参加するようになってきた。当初の目的からすると、地域のアーティストの作品の発表の場、販売の場という目的であり、美術館の参加はどうかという意見もあった。

 しかし石橋美術館に収蔵されている画家、青木繁・坂本繁二郎もまた久留米という地域に生まれ、その風俗を題材として積極的に取り上げてきたアーティストである。彼らは郷土をその題材とすることで、歴史的に固有な文化背景を無形の資産として作品に取り入れた。その結果、自らの郷里に石橋美術館を築いたブリヂストンの創業者・石橋正二郎のような、土地に縁のある理解者・支援者にとって、彼らの作品は郷土の力を表現する資産として扱われ、「芸術品」という財として社会に受け入れられていった。そういう意味においては、彼らもまた「アートをたずねる月」の先駆者だと言える。そしてまた狭い地域なのだからこそ、より多くの人が動く方が結果として全体にとって良い効果を生むだろうという判断の下、参加することとなった。

 一方、2004年度は66件、2005年度は106件、そして2006年度は123件と増加する参加者に比例して、パンフレット作成や経理作業、地元マスコミに対する広報やWebの作成といった一般事務作業が増えてきた。これらの作業に対してはパンフレット作成はイラストレータ、マスコミ対応はイベントプロデューサー、Web作成は元システム屋である工藝店、そしてイベント全体を代表するための企画取り纏めは中心メンバー全員という形で遠慮のない議論、と能力に応じた分担を行い、極力個々の業務にできるだけ負担をかけないようにしている。

 これらの経緯を経て、アートをたずねる月というイベントの目的も、当初考えていたような近所の店舗の連携による販促活動という面をこえて、ギャラリーや美術館に見に行くという関わり方だけではなく、生活に密着した店舗を利用してアーティストに作品発表と販売の場を与え、地域固有の文化を再評価し、それらをアートというコンテンツに含めることによって地域全体の購買活動を盛り上げていくことへと変わってきた。また現在、メンバーのさらなる希望として、過去多くのアーティストを輩出してきた福岡という場から今ふたたび、アーティストを育てていくための場を作りだしていきたい、といった新たな目的意識も産み出されつつある。  これらの目的の実現のため、アートをたずねる月が行っている活動の一つがアーティストと店舗とのマッチングである。これらの具体的な内容及び2006年度の活動報告、そしてイベントが抱える課題と対応などについて次回、詳細な報告をさせていただきたい。

参考
アートをたずねる月Webサイト http://www.fukuoka-artwalk.com/

写真:10月15日に博多・住吉能楽堂で行われた講演において語る坂田和實氏と熱心に話を聞くお客さん

8takakiphoto1.jpg

8takakiPhoto2.jpg
posted by CAC at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/27558583
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。