2006年11月15日

<NO.8> 社会起業家のための政策分析入門F 政策の分析技法

服部 崇

分析技法とは、分析のための「技」、技術上の方法のことである。社会起業家にとっては、関心領域に関し、その社会事象の現状を理解し、現存する政策を振り返り、理想とする状態との乖離を埋めるための方策を見出すことが政策分析の目的となる。このための技法は、社会事象の実態把握や政策効果の測定に威力を発揮するものでなければならない。政策分析を進める際には、問題を特定し、仮説を立て、特定の方法論を採用し、仮説を検証する。この仮説・検証に見合った分析ツールを駆使することが必要となる。本稿では、社会起業家が政策分析を進めるに当たり、適切な分析技法を見出すために留意すべき事項について検討しておきたい。

個々の分析ツールを持ち出す前に強調しておきたいのは、的確な問いを立てることの重要性である。「問い」を分析可能なレベルに調整しなければならない。抽象度を調節することによって、問いとそれに対する答えを検証可能な仮説の形で提示することができるようになる。その上で、原因と結果、あるいは独立変数と従属変数の相関関係を明らかにすべく、その方法論に合致する分析ツールを探すこととなる。

分析ツールに関しては、ツール開発の側面とその効果的な活用の側面がある。開発の側面が強調されるのは、すべての課題に適用し得る万能なツールは存在せず、個々の課題に即したツールをその都度開発する必要があるからである。既存ツールを用いることができる場合、既存ツールを改良して用いる場合、新たなツールを構築する必要がある場合が考えられる。他方、ツールを開発しても、効果的に使いこなせなければ意味がない。

分析ツールは、定量分析を行うためのものと定性分析を行うためのものとに分類できる。定量分析とは、既存統計やアンケート調査の結果、あるいは実験室やコンピュータ上のシミュレーションの結果などを統計的に処理し、数量的な解析を行うものである。定性分析とは、インタビューや参与観察などを通じ、個々の社会事象の実態や政策の現場に接近する方法である。

定量分析、定性分析のどちらを採用するか、その中でいかなるツールを使用するかは、個々の仮説検証に最適なものを選択すべきとしか言えない。実際には複数のツールを併用し、多角的に検証することが多い。
それぞれのツールにはメリット、デメリットがある。定量分析は、数値で「客観的」に表現するのに適しているが、具体的なデータ入手が困難な場合もあり、表面的なものに堕しがちである。定性分析は、個々のケースにより深く踏み込むことができる場合もあるものの、そのケースで見られることが一般的に適用できるか否かが問われることとなる。

試しに、今私の手元にある『地域福祉研究』No.24(1996)に掲載されている石田一紀論文「中山間地域における住民の私的扶養意識と福祉力の形成」(39〜50頁)を見てみよう。石田は、「中山間地ではなぜ福祉サービスを住民が使おうとしないのか」との問いに行き着き、「旧来的な私的扶養意識が阻害要因となっている」との仮説を立てた。この仮説を検証するための方法論として、既存の住民意識調査を用いた量的分析と、T氏(男、94歳)とN氏(女、92歳)のケーススタディの質的分析を併用した。

「三次市老人保健福祉計画策定のための市民調査結果(1994年3月)」を活用した量的分析から、福祉サービスの周知度に比べて利用度が低いことを示した上で、聞き取り調査によるケーススタディを用い、その要因を「介護を一人で抱え込まざるをえないような孤立状況に追いやる農山村における家族関係と生活力の脆弱さ」(43頁)に特定した。ここから、住民と福祉従事者との「日常的な関係作り」(44頁)の重要性を引き出し、いくつかの提案を行っている。

これは、あくまでも一例に過ぎない。分析ツールには多様なものがあり、課題ごとにそれに見合ったツールを開発、活用するしかない。分析技法を磨くには、関心領域における各人の問いを突き詰め、仮説検証に適した分析ツールを見出すことに意を砕くことが第一歩となる。

以上で第1回から今回まで連載してきた概論を終える。次回以降は、政策分析、特に政策形成過程の分析における各種方法論について掘り下げていきたい。次回は、政策形成の主体分析について取り上げる予定。


posted by CAC at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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