2006年06月25日

<NO.7> “社会にやさしい人達”はどうやったら生まれるのか?:アメリカのフィランソロピー教育戦略

大西たまき

今年の春は“忙しい”時期だった。「忙しい」というのは何も仕事量が多い、と言った物理的な事のみを指しているのではない。フィランソロピー教育関連のプロジェクトを進めるべく同僚達と日本に帰っていたし、こちらでも様々な出来事があり「考えることに忙しかった」という方が正確だろう。全ては「どうしたら“社会にやさしい人達”のマーケットを生み出せるか」に集約する。
今年の切り出しは、宣伝会議の出版する『環境会議』への寄稿だった。正直に告白するが、実は、私は環境関係のメディアやイベントが苦手だ。環境問題にセンシティブではない、というのではない。我が家は、コンポストが出現してすぐに購入、自宅の庭で野菜や花の有機栽培を開始する様な家だ。母は通っていた学校で教官相手に化学肥料が土地や野菜、人間に及ぼす害に関して真っ向から議論するような人である。アメリカに来てからも、水質・地質を守るべく、洗剤から食べ物まで全てバイオグレイダブルや有機の製品。これは同時に、有機栽培の農家を支援するためでもある。

が、徹底的にあまのじゃくな私は、エコ関連が一種のトレンドに取り上げられる現象に対抗(?)して、この手の関係のものに余り目を通さなくなくなってしまった。にも関わらず、『環境会議』などと、“環境”をタイトルに掲げる雑誌に、ここのところ何度か寄稿させて頂いた最大の理由は、「一般の市民、ビジネスパーソンをいかに社会的責任活動に結びつけるか」という彼らの主旨と、私の方向が実に一致しているからである。

当然だが、どんな事業活動も、需要、マーケットが存在してこそ成立するものだ。分かりやすく言えば「一般の市民達が、社会起業やNPOを支援したいと思えるように、その意義を分かるような工夫をする」という事である。具体的な目的とは、「NPOを支援する寄付者」や「わざわざ社会的事業の製品やサービスを選び、購入する消費者」の層を厚くする事だ。

逆に仕掛ける方から言うと、「わざわざ高いお金を払って、バイオグレイダブルなセブンス・ジェネレーション社の食器洗浄剤を買うと、何が良くなるのか」とか、「寄付する際に、寄付者として何を受ける権利があるのか」、「NPOや社会起業を支援する事で、支援者としてのどういうメリットを受けることが出来るのか」などを具体的に示してあげる事が重要だ。

アメリカでは、こうした啓蒙活動を「教育」と呼ぶ傾向があるようで、市民社会関連のマーケットを発展させるこうした活動は、「フィランソロピー教育」と一括できるだろう。メディア、特に活字媒体の取り上げ方には目を見張るものがある。フォーチュン誌やビジネス・ウィーク誌などで、「フィランソロピー」という言葉を探すのは難しいことではない。女性誌に至れば、例えばハイソな女性向けのタウン&カントリー誌など、ほぼ毎号、特集しているものもある。金融機関やファイナンシャル・プランナーの個人財産計画アドバイスの中に、公益信託などの寄付商品を組み入れ、その節税と社会貢献度を助言する、などというのも、立派な「フィランソロピー教育」である。「経営の透明性を示す」といったアカウンタビリティ確保の情報公開も、広くはフィランソロピー教育の一環だ。もちろん、上述した『環境会議』の記事も、広く読者に様々な社会的責任活動に関する情報提供という意味で、フィランソロピー教育である。

青少年向けだと、もう少し“勉強”の意味合いが強いだろうか。ラーニング・トゥー・ギブという教育NPOは、必修事業の中にフィランソロピーの内容を組み込むモデルを作り上げた。これで数学や社会、国語などの授業で、同時にフィランソロピーも学べる。モデルは、今や韓国やドイツ他の様々な国でも取り上げられている。日本でも試みが始まったばかりだ。サービス・ラーニングのように、地域に出て体験を通して学ぶ方法もある。

こうしたフィランソロピー教育は同時に、支援者である市民にとっても充実感とやりがい育み、その行動や思考に効果的なインパクトを与える事が注目されている。例えば、マイクロソフト社のビル・ゲイツ。最初は夫人と父親に半ば強制的に勧められて始めた社会支援が、アフリカの子供達に直接触れ、自分の富で社会や人の命を救えることを体験し、今では、自分で支援するに留まらず、国際会議で他の参加者達も促すにまで、成長した。1999年時、私が公共テレビで寄付者開拓調査をしていた時には、同僚達と「ゲイツは財政能力的には非常に大きいが、個人的関心から見て可能性はゼロ」と、冷ややかに見ていたものだ。joy of giving(社会支援の喜び)を実感して、ゲイツ自身も大きく変わった。

富裕市民だけでない。経済的・社会的に問題を抱える子供達に向けてフィランソロピー教育プログラムを実施、社会で活動をさせたところ、その態度、自己判断能力、そして学力までが向上した成果が出た。

「社会支援は、それを担う人をハッピーにさせる」—それが、私がフィランソロピー教育に大きな関心を持ち、日米でプロジェクトを始めたきっかけである。偶然、現在所属する大学が、フィランソロピー教育に長年取り組む所で、関連主格団体も事務所内に拠点を持っていたため、材料も豊富にあった。日本でも特に東京都の新たな教育施策など、大きなニーズがあることも知ったし、フォーラムを実施して、日本の関係者や聴衆の人達の話を伺える貴重な機会もあった。

さて、こんな事を考えつつ、アースデイを迎えた。全米各地の市で、環境関連のイベントが繰り広げられ、私が住む市でも、広大なパークを埋め尽くすほどのテントが並び、市行政関係者から環境NPO、若いお母さんや子供、有機栽培農家、さらに子供関係の団体まで、様々な人達が集まった。人、だけではない。ペット大歓迎の広告につれ、犬やら猫やら動物も混ざって、もの凄い熱気である。

フィランソロピー教育に熱心なアメリカ、もちろん(!)アースデイにちなんで、様々な雑誌で環境関係の特集が組まれた。元副大統領アル・ゴアのアップの顔写真が表紙のワイアード誌、ウォースワイル誌では一年で仕事を辞め、NPOを立ち上げた元ゴールドマン・サックスのバンカー他、一般市民達が取り上げられ、さらにエル等の女性誌でも「グリーン特集」が組まれた。アメリカでのフィランソロピー教育戦略は、こうやってメディア、教育、イベント、コンサルテーションなど、多彩なチャンネルを通して拡大し続けているのだ。

posted by CAC at 12:31| Comment(1) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ノーマライゼーションを推進する立場としても
まったく同じことが言えるなと思いました。
社会に対する姿勢、学ばせてもらいます!
Posted by 江原 at 2006年10月01日 02:59
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