2006年06月25日

<No.7> スリランカの社会起業家:児童虐待に取り組む

溝田 弘美(スリランカ在住)

 今年2月、ニューヨークからスリランカのコロンボに引越した。旅行では何度も訪れている国であるが、住むとなると、今まで見えなかった途上国の風景が目に入る。最近のアメリカでは見られないような掘っ立て小屋の立ち並ぶスラム街は、コロンボの各地にある。皮肉なことに、スマトラ地震による津波は、コロンボ南の海外沿いにあったスラム街を流し、いまや、景観の向上に貢献しているが。コロンボは不動産バブルで、豪華なマンション建設ラッシュのため、スラム街が余計に目につくのかもしれない。スリランカの社会問題やソーシャル・イノベーションなど深く知るために、まずは、社会起業家支援で著名なアメリカのNGO「アショカ」のアジア地区での活動をみながらスリランカの今後を考えてみたい。http://www.ashoka.org/global/aw_asia.cfm

 アショカがアジア地区で選定したフェロー(リーダーとなる社会起業家としてアショカからさまざまな支援を受けることができる)は、インドで1982年から始まり、いまや7カ国(インド、インドネシア、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラディッシュ、タイ)で400人以上になる。アショカ・フェローの多選国は、インドの211人、インドネシアの101人にタイの69人と続く。一方、スリランカではたったの5人。小国ネパールでも29人のフェローが選ばれているのを見れば、単に、スリランカには深刻な問題が少ないようにも見えるが、街へ出れば、スラム街や乞食など、貧困化が大きな社会問題であることは顕著である。

 スリランカの初代アショカ・フェローを見てみよう。2003年に選ばれたのは、小児科医のハレンドラ・デ・シルバ教授。大学でも教鞭をとる教授は、赤痢や下痢の草分け的な研究を行い、スリランカの高い乳児死亡率や栄養失調を解決するプログラムに取り組んできた。デ・シルバ教授が人生の転機を迎えたのは、1985年に虐待を受けている二人に子供に出会ってからである。児童虐待は海外でのみ起こっている問題であって、スリランカにはないと信じていた教授には相当なショックであったようだ。その後、医師としての自己の活動時間を削り、児童虐待に取り組んできた教授は、児童虐待という概念がなかったスリランカで最初に児童虐待を専門的に明らかに記した人である。デ・シルバ教授は、スリランカ大統領に政策提言を行い、1999年、東南アジアでははじめて、国立児童保護局the National Child Protection Authority以下NCPA1)の設立に成功する。NCPAは、あらゆる専門家が関わり、児童虐待に対する明らかで効果的なアドヴォカシー、法改革、法施行、リハビリ、教育、訓練
の方法を用いる機関である。

 スリランカでは19年間続いた内戦が2002年に終了し、2004年に津波があったことで国際支援・投資がより導入され、経済発展、物価・地価上昇が著しい。そこに来て、最近、テロ活動が復活し、内戦の再勃発も騒がれているため、メディアや人々の関心はテロかビジネスにある。

 この社会環境では、児童虐待のニュースも一般市民からは見逃されがちである。デイリーミラー紙によれば2)、スリランカ(人口約1900人)の約20%の少年、10%の少女が家庭は学校で性的虐待を受け、15万人の児童が不法労働を強いられているという。また、ユニセフとILOの統計では、スリランカには4万人の買春児童がいて、海外旅行客が子供売春を求めてくるという。児童は売春に加え、ドラッグやアルコールの密売にも利用されることもあり、背後に犯罪が潜んでいることもある。また、19年続いた内戦は100万人ものホームレス児童を生み出したが、ユニセフでは、そのうち3分の1の児童が就学に戻れず、反政府組織の下で使用人として労働を強いられていると予測する。内戦が再勃発すれば、これらの児童が児童兵として使われることになる。

 スリランカにおける児童虐待改革の難しさは、メディアやアドヴォカシー団体が児童不法労働をニュースにしようとすれば、その話題がよりタブー視されていくというスリランカ社会の実情にあるかもしれない。富裕層は低賃金労働による利益を享受している側面もあろう。さらに、グローバル経済は、外資をよりスリランカに取り込み、経済は向上しているように見えるが、国内ではもともとあった貧富の差が増すばかりである。知と富を持たざるものが貧困から抜け出すことは難しく、貧困家庭に生まれた児童が、親から不法就業を強いられる運命にある。アショカ・フェローが作ったNCPAといった機関のコンセプトはすばらしいし、いかなる児童にも救いの場所を与えていることで大きな貢献に値する。しかし、国家的プロジェクトとして貧困問題を解決しない限り、児童虐待やスラム街の問題を根底から解決することはできない。今後、社会起業家が続出し、スリランカの貧困問題を解決していくことを期待したい。

1) NCPA http://www.childprotection.gov.lk/newsUpdate0810200301.htm
2) “MANY CHILDREN STILL ABUSED AND NEGLECTED IN SRI LANKA” By Damitha Hemachandra, Daily Mirror, 08th October, 2003


posted by CAC at 12:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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