2006年06月25日

<NO.7> 社会起業家のための政策分析入門E 「学」の総合性と専門性

服部 崇

「学」の総合性と専門性について考える。新たな「学」が構築されるとき、従来の「学」との関係が整理され、その「学」のための新たな領域が特定される。しかしながら、その試みは多くの場合、理論と実践の両面において困難に直面する。社会起業家のための政策分析を進めるに際して、基盤となる「学」とは何かについて検討したい。

例えば、「地域研究」(Regional Studies)を取り上げてみよう。世界の中の特定の「地域」について研究する「学」を構築しようとするとき、個々の(研究)者は、総合性と専門性の葛藤に囚われる。総体としての(研究)集団としても、同様の葛藤は免れ得ない。
本間長世・有賀貞編『アメリカ研究入門[第2版]』(東京大学出版会、1980年)の中で、本間は、次のように書いた。

アメリカ研究の中心となる研究者は、十分な英語力を備え、ひとつのディシプリンを身につけ、他のディシプリンによる研究成果に関心と理解を持ち、個別研究に沈潜しながらも総合研究の可能性に賭け、日本の社会と文化についての基礎的知識に立って比較研究の視点を活用し、アメリカの研究者の業績を吸収しながらも全体論的解釈のための洞察を磨いてゆくような人物であろう。(13-14頁)

ヒスパニックなど個々のエスニック集団を抱えるアメリカに関する地域研究として、語学は英語のみでよいのかなどと言うのはよそう。本間は、スーパーマン/スーパーウーマンを想定している。
「学」全体については、本間は次のように述べる。

第2次大戦後の日本におけるアメリカ研究は、アメリカ文明についての総合的理解を目指しながらも、研究方法については厳密な検討を行なわず、個個の研究者が、特定のディシプリンを身につけた上で行う学際的研究およびひとつのディシプリンの範囲で行なう研究の総体が、アメリカ研究の成果であるという前提に立ってきた。(10頁)

冷戦終結後、ポスト9・11のアメリカ研究にどこまで有効な言説かはともかく、「学」としての地域研究の困難さを言い表している。それでも、本間は、「アメリカ文明の各側面――歴史、政治、経済、社会、文化など――についての個別的研究が今後もさらに発展することが、アメリカ文明の体系的理解を深めるための主要な手段であることを、率直に認めることが必要であろう」(11頁)としつつ、「個別的研究に基づいた総合的アメリカ研究への努力を払うことが、・・・必要とされるのである」(12頁)と結論づける。

本稿は、アメリカ文明を語ることやアメリカ研究を行うことを意図するものではない。社会起業家のための政策分析を進めるに際して、基盤となる「学」とは何かについて検討したいのである。
明治時代の大学創設時に法、医、理、工、農など1文字で表される学部ができ、その後、第二次大戦後の学部新設時までに経済、社会、教養など2文字の学部が、そして、1990年代には環境情報、総合政策など4文字学部が新たに設置、と喧伝された。21世紀に入って、コミュニケーション、マネジメントなどカタカナ学部が増えてきた。すべては、時代に応じながらも、既存の「学」の研究・教育の集合から新たな「学」の研究・教育の集合を切り分ける作業であった。
1990年代、政策科学を教える学部・大学院が多く新設された。私立大学が先行し、慶応義塾大学は1990年に、中央大学は1993年に、関西学院大学は1995年にそれぞれ総合政策学部を、立命館大学は1994年に政策科学部を設置した。国立大学では1997年に、政策研究大学院大学が埼玉大学大学院政策科学研究科を母体に発足している。(公立大学では、例えば、北九州市立大学が2000年、法学部行政学科を政策科学科に改組している。)これらは、既存の学を研究・教育する学部・大学院から分かれて、新たな学たる政策「学」を研究・教育する学部・大学院として成立している。その際、政策の用語と共に、多くの場合「総合」がキーワードとして抽出された。

総合性と専門性について。大谷實、太田進一、真山達志編著『総合政策科学入門』(成文堂、1998年)によると、同志社大学は総合政策科学研究科の設立準備を進める際、「社会の諸問題を分析し解決策を探求するという課題にとって必要な高い専門性と総合性を養成するための学際的な体系」を学科の研究領域の共通概念として掲げた(『同志社大学総合政策科学研究科設置の主旨および特に設置を必要とする理由』[同書、7頁から引用])。
そして、同書は、「総合政策科学の方法」として以下の3点の必要性を唱える。

1.個別専門領域に拘泥せず、政策問題を常に多元的な要因の相互作用として動態的に捉える。
2.問題を探索し、解決すべき課題を明確にする。
3.既存の科学の多彩な方法・技術を柔軟に駆使する。(4〜5頁)

宮川公男『政策科学の基礎』(東洋経済新報社、1994年)は、「公共政策」とかかわりあっている社会科学の諸科学として、関係の強弱はあるものの、政治学、法律学、経済学、経営学、オペレーションズ・リサーチ・経営科学、システム工学、情報工学、社会学、心理学を例示している(49頁)。政策科学は、専門性を要求するとともに、これらの諸学を統合する総合性を期待する。
この際、既存の「学」から分離するに当たって、実践の「学」としての機能が重視される。ここに社会起業家のための「学」としての「政策科学」の意義が見出される。政策分析を行うための基盤としての「学」を構築するためには、「学」にサイエンス(科学)とアート(技法)とが共に備わっていることが必須である。
「政策研究」(Policy Studies)と呼ばれる政策科学の研究を進めるに当たって、困難な道とはいえ、総合性は、専門性とともに志向される努力目標として位置づけられる。

次回は分析技法について検討する予定である。
posted by CAC at 12:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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