2005年02月03日

民設民営地域益のコミュニティ・カンパニー

坂本忠弘  財務省(現在金融庁に出向中)

(地元のお金で、地元を元気にしよう)

 これは、さわかみ投信の澤上篤人社長のメッセージである(注1)。
 地元にお金が回ってこない問題は、地元の資金が郵便局や銀行の窓口で吸い上げられ、そのまま国庫や東京に向かってしまうこと。澤上氏は、これに対して、「御当地ファンド」を提唱している。地元の資金をプールし、プロの長期運用に充てる部分を設けてリスクの軽減と一定のリターンの積み上げを図りながら、一部を地元の「目利き役」の意見に基づき地元に資金を提供する。
 日本経済新聞の藤井良広編集委員は、「地金地生」を提唱している(注2)。
地元でとれた産物を地元で消費する、地産地消運動。藤井氏は、同様に、地元のお金を地元で生かすという意味で、「地金地生」と表現している。
 その根底に共通して存在するのは、「自分のお金の行き先を自分で見届けたい」、「自分のお金の行き先を自分で決めたい」、そういう市民サイドの声の静かにしかし確かな高まりである(注3)。

(新しい「地域益」の担い手)

 「国から地方へ」、「官から民へ」、これまでの制度とそれに根づいた精神を変える動きは一直線にはいかないが、その流れはとまることはないであろう。
 行政が独占的に担ってきた公共サービスを民間の事業主体に開放するという動きも本格化してきている。
 地域力をよいかたちにプロデュースし、より少ない予算・費用で、きめ細かに社会のニーズに対応していく。その担い手は、これまでの行政から新たなNPOまで、多彩な主体が競い合う時代の幕が開いた感がある。
 新しい公共サービスの担い手が、市民サイドとのより身近な関係の中で、従来の公共サービスの質を改善し、それぞれ多彩な「地域益」の実現に取り組む。
 多様化する社会の中で、「公益」といってもひとくくりにすることは難しい。より身近な関わりの中で「地域益」を考えていくことが、社会全体を考えていくことのてがかりにもなると思う。

(「民設民営」というアプローチ)

 新しい「地域益」の担い手と行政の関係は、様々なかたちがありうる。
 行政事業の「民間委託」、「公設民営」、「民間移管」、指定管理者制度・PFI・民営化等々、色々な手法が試みられており、どのような事業がどのような手法に適しているか、整理してみる必要がありそうだ。
 このような「民間化」が様々なかたちで進む中で、市民サイドが、地域でのつながりをベースに、自ら積極的、主体的な役割を担うものとして、「民設民営」で「地域益」の実現をめざす、というアプローチもある。民意民力による「もうひとつの市役所」をつくる試みともいえる。
 ポイントは、自治体あるいは外郭団体とは明確に一線を画すものであること、その大きな要素として、自治体からの基金・資本の拠出による関与は受けない。地域を楽しく元気にしたいと思う人が、「顔の見えるお金」のほか、今は眠っている役に立ちそうな物、それぞれの人的ネットワークやアイデア、これら「地域財」を持ち寄り、オープンな参画型で運営に当たる、「コミュニティ・カンパニー」というコンセプトである。

(事業運営主体のデザイン)

 事業運営の形態についても、事業型NPO、中間法人、事業協同組合等々、様々なかたちがありうる。
 それぞれの事業運営主体がどのような特性を有しているか、これも整理してみる必要がありそうだ。
 その際には、ガバナンスの機能発揮、事業活動の自由度、資金調達の容易さ、という3つの観点が、まずはポイントとなると考えられる。
 「民設民営地域益」の事業運営主体のひとつの手法として、渡辺清氏が提案する「非営利型株式会社」(NPC:Non-Profit Company)がある(注4)。
 これは、事業運営の形態として広く活用され歴史と実績をもつ株式会社の枠組みを活用するもの。株式会社の性格としては、まずもって営利性が挙げられることが多いが、発想を転換するものである。
社会的事業を継続していくためには、モノ・サービスに関して正当な対価を得て、それに従事する者へ正当な報酬を支払うことは、必要にして当然といえば当然のことである。営利性の判断の本質は、その事業運営主体の会員等の構成員や出資者に剰余金を最大化して利益分配を図るところにあると思われる。これにより、その構成員や出資者は直接的な金銭的利益を得るものである。
NPCにおいては、出資者たる株主に配当を行わないことを、定款で明記または利益処分方針として明確にしておく。剰余金は、全額、目的とする社会的事業への再投資または同種の社会貢献活動への寄付に充てる。
 株主のメリットは、その社会的事業の成功を通じて、NPCに集う株主が描く社会を実現していくことである。そして、剰余金の計上により資金を確保し、めざす社会の実現に向けて更なる社会的投資を行うことである(注5)。
民設民営地域益のコミュニティ・カンパニーの場合、そのまちがよくなることが、まちづくり会社としての株主配当である。
 そしてこの株主は、株式の売買で利益を得るために株を持つものではなく、株を持つことでまちづくりに関わっていく、持ち続けることに意義を感じる株主となるのではないだろうか。

(まちづくり事業の類型)

 コミュニティ・カンパニーは、地域の公共サービスの担い手のプラットフォーム、理想的には地域の公共財のひとつとして、まちづくりに関わる人々の意思と協働で、地域それぞれのニーズと特色を反映しながら、芽を出し大きな幹へと事業展開していくことが期待される。これに関して、事業の類型を整理すると以下のようになる。

・行政事業受託・移管
 例えば、公共施設の管理・運営(市民ホール・駅前駐輪場等)、廃棄物収集、環境美化など。
これらについては、身近な行革の成果を地域に還元させる枠組みとなるものである。また、夜間のゴミ収集と防犯パトロールのリンケージ、「花一輪」運動等のまちの景観を考えたうつくしいまちづくりなど、広がりのある付加価値をつけるものとなることを期待したい。

・コミュニティ事業
 福祉、教育、保育、住まいづくり等の分野については、コミュニティ・ビジネスとして、「地域益」が実現される可能性が特に高いものと考えられる。
例えば、介護保険制度の対象とならない家事支援としての宅配サービスと地元商店街の注文・配達の相乗り実施、そして、それを通じた地域の見守りなど、全国共通制度の地域補完や地域経済活性化の方策を絡めることはできないか。地域で実は探せば見つかる「地域財」を活かした教育・保育のプログラムなど、事業展開が更なる「地域財」の活性化につながるものとなることも期待できる。

・地域貢献事業
 行政事業受託・移管やコミュニティ事業を行う中で築かれるプラットフォームを活用して、それ単独では事業継続のための収支均衡を確保することが難しい地域貢献事業を行うことができないか。
例えば、行政のハイコストでの「すぐやる課」に替わる「よろず相談所」、商店街案内等を含めた「まちのコンシェルジェ」など。
 上記の3つの事業のホールディングスの中で、人・物・資金がうまく融通されるものとなることが期待されるところである。

(追記:「草の根の直接投資」に向けて)

 政府が17年の通常国会に提出予定の地域再生法案の中で、「特定地域再生事業」を担う株式会社への出資について、一定の税制上の措置を講じることが盛り込まれる見込みである。
 「特定地域再生事業」の認定の仕組みや税制上の措置の内容等について、なお議論があるものと考えられ、また、寄付も含めたより幅広い社会的投資の取扱いについても、更に検討の余地があるところと考えられる。
 しかしながら、このような動きは、民設民営地域益への草の根の直接投資の拡大のみちをひらく流れの中の一つの事象として、後にふりかえられることになるであろう。

(注1)さわかみ投信レポート(04.7.15)
(注2)「コミュニティビジネスと信用金庫」(「信用金庫」04年12月号)
(注3) 同上
(注4)「非営利型株式会社の提案」(跡田直澄・渡辺清「経済セミナー」(日本評論社)04年3月号)
(注5)但し、当該NPCの提供するモノ・サービスの優先的・優待的提供を受けることや、何らかのかたちで社会的投資家として名を刻むことなど、直接的な金銭的利益ではないメリットを受けることは考えられる。
(注6)本稿は、ホームタウン・ドナー・クラブ副理事長の渡辺清氏との実践的議論に基づくところが大きい。但し、私見を含むものであり、本稿に関する文責は、筆者にある。
posted by CAC at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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