2006年01月09日

<Vol.6 新年号>日米ソーシャル・イノベーション・フォーラムを開催して

 2005年夏、米国から社会起業家支援で著名な非営利団体アショカとRoberts Enterprise Development Fund: REDF(以下REDF)のキーパーソンを招聘してシンポジウムを開催した。社会起業家は、「社会に変革をおこす」人々である。社会起業家の活動をどのように社会全体で支援していくことが望ましいのか、その糸口を探るために、「日米ソーシャル・イノベーション・フォーラム:社会変革投資へ、そのリターンを考える」と題して実施した。本フォーラムは、東京アメリカンセンターとの共催であり、国際交流基金日米センターの助成を得るなど多くの組織及び個人の協力のもとに実現したものであった。企画を含む準備期間に1年以上を費やした。シンポジウムのほか、日本の専門家と米国ゲストによる日米ソーシャル・インパクト専門家会議を開催した。その経緯と成果を振り返りながら、新年に取り組む方向性を整理したい。

 私は、2001年1月から、CACの活動を通じて「社会起業家」の普及を推進する取組みを少しづつ進めてきた。今まで出会った社会起業家たちは、孤独で地道な活動であったと自らを振り返ることが多かった。そこで、社会起業家の活動を支援するために、2004年から大きなテーマに挑戦し始めた。それは、金銭的な視点から、社会起業家を支援する社会的なしくみを構築しようというものである。一般の起業家と異なり社会起業家は、社会的な課題解決というミッションを重要視するため、市場で資金を調達することが難しい場合が多い。そのため、積極的に社会起業家を支援しようという社会の風土やしくみが必要であると考えたのである。社会起業家の成果に着目し、「ソーシャル・インパクト」を測定することが1つの手段になるのではないか、と取り組み始めた。

 ソーシャル・インパクトの測定は、経済的価値のみならず、社会的価値を評価することによって可能となる。社会的価値評価の一つとして、社会的責任投資(SRI)がある。近年、投資信託など金融商品として広まってきた。これは、企業自体の社会的な側面をアンケート調査等で評価しポートフォリオに組み込むのである。一方、我々が本プロジェクトで試みようとしている評価のアプローチは、2つの視点から模索した。1つは、社会起業家の活動成果に着目し、その波及効果を評価すること。もう1つは、支援をする側からのアプローチ。つまり、支援者である企業等が行った社会的事業や社会貢献活動の影響度を評価対象とする。米国では、支援者が社会に資金を提供することを、「社会に投資」する、という言い方が広まっているようだ。そして、一般に投資効果が測られるように、社会に投資した効果も測るべきではないか、という議論が高まっていた。より一層効果的な支援をするためである。

 ソーシャル・インパクトに関する先行研究を調べると、2000年ごろより英米で熱心に議論が行なわれていた。米国の財団や非営利団体による社会起業家支援は既に実績はあるが、本テーマは、まだ、新しいホットな研究課題であった。特に米国では、コロンビア大学のビジネススクールのように、研究の柱として位置づける大学があるなど、社会起業家研究の潮流となっていることがわかった。

 そこで、フォーラムに招聘する団体として、社会起業家の支援団体として先駆的なアショカとREDFに着目した。アショカは、アショカフェローと名づけた社会起業家による世界的なネットワークを構築していることで注目が高まっている。アショカの創設者は、マッキンゼーなどに在籍していた経験を生かして、営利セクターの考え方や手法を非営利セクターに持ち込んだ。REDFは、社会起業家の研究及び実践において第一人者であるジェッド・エマーソンが創設時の中心人物であり、REDFから多くの社会起業家に関わるペーパーを発表していた。創設者は、ナビスコの敵対的買収で有名なKKR(コールバーグ・クラビス&ロバーツ)のジョージ・ロバーツである。REDFは、支援先(彼らは投資先と呼んでいる)であるソーシャル・エンタープライズに対してその支援効果(投資効果)を測るため、ソーシャル・インパクトを金銭化する試みに全米で初めて挑戦していた。

 そこで、フォーラムでは、アショカ(ビル・カーター アショカ理事)の基調講演は、「ソーシャル・イノベーションと個人の力」、REDF(シンシア・ゲア− REDF社会起業部門担当ディレクター)には、「ソーシャル・アントレプレナーへの支援と社会的投資効果」と題して基調講演を行なった。続くパネルディスカッションでは、米国ゲストに日本の社会起業家が加わり、社会起業家の支援のしくみをどのように作ることができるのか、といった問題意識をもって臨んだ。聴取者には支援する側として企業、金融、財団関係者を想定して、「社会変革を促す本当に必要な投資とは何でしょうか?」、「社会的投資効果をどう測定すればいいのでしょうか?」というテーマを設定した。
詳細は、CACサイトhttp://cacnet.orgに掲載している議事録に譲るが、アショカは、1980年に活動を開始した当初、この社会起業家という新たな職業、1つの分野をどのように支えていったらいいかを考えた。アショカは、社会起業家を「市民社会とビジネス起業家を橋渡しする役割をもっている」と表現した。慈善活動の非営利セクターと、営利を追求するビジネスのセクターは、これまで大きく異なる世界だと考えられてきた。本当にそうだろうか、と私は思う。社会起業家支援を推進する活動は、非営利と営利の垣根が低くなることにつながっていく、という我々の考えと共通する考え方であることを改めて認識した。
社会的価値の評価として、アショカは、社会起業家の事業がどれだけその国のモデルとして定着しているか、という影響度から測っていた。対して、REDFは、投資先であるソーシャル・エンタープライズの事業によって、社会にどれだけの費用削減効果を上げることができるのか、という測定を行い金銭化していた。REDFのスタッフの多くはビジネスの世界で経験を積んできた。組織が創り出した価値をお金に換算するのに慣れている。経済的価値から社会的な価値まで連続体であり、その間には、社会経済的な価値があると考えた。社会的価値ではなく、社会経済的価値であれば定量化できるとみなしたのである。その測定の難しさもあわせて話し、新たな試みを情報を共有することで改善を図っていきたい、と話しを締めくくった。

 フォーラムの当日、200名を超える参加者があった。当初意図した企業や金融関係など支援する側の人々をはじめ、大学生や社会起業家予備軍が大勢集まった。会場は終了後もなかなか人がひくことがなく熱気が冷めない状態であった。自ら活動する勇気が湧いた、といった声が聞かれたことは大きな成果であった。しかしながら、多くの質問用紙やアンケート結果をみるにつけ、社会起業家の基本的な概念についての質問が多く、役割や意義に対する理解度がまだ十分ではないことが伺えた。
 さらに、ソーシャル・インパクト専門家会議でも同様であるが、どのように社会が社会起業家支援をすべきか、そのツールとしてのソーシャル・インパクトの測定をいかに行うかについて、議論が深まるところまで至らなかった。社会起業家の概念が十分に普及していないことを痛感した。海外では、著名なビジネススクールで研究の柱として取り組んでいるところが急増している。社会起業家研究や本テーマにかかわる大学教育をどのように進めていくか、といった議論も活発である。日本においても既に活躍する実務家や社会起業家予備軍を支援するために本テーマにおける大学教育や研究の充実は急務ではないかと思われる。今後は、海外の実務家や研究者を誘い、更なる議論を深めソーシャル・インパクト測定の具現化に向いたい。
posted by CAC at 21:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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