2005年12月18日

<Vol.6 新年号> アメリカ高齢社会改革(2)―ニューヨークの日本人コミュニティ

溝田弘美

ニューヨークという大都会には、いくつもの人種マイノリティが個々のコミュニティを形成している。ニューヨーク市の保健福祉局によれば、伝染病予防の普及活動のために、90カ国以上の言語で対応できるスタッフがいるとか。ニューヨーク地域(ニューヨーク、ニュージャージー、コネティカットの各州)に日本人は9万人(ニューヨーク総領事館調べ)もいるそうだが、日本人コミュニティの存在の影は薄い。しかし、最近になって日本人の高齢化が進み、介護などの問題が浮上したことで、ばらばらだったコミュニティの再構築が進もうとしている。

ニューヨーク地域にいる日本人高齢者は、孤独死や認知症になってもセーフティネットがないという課題に直面している。また、重病で病院に運ばれたものの英語力不足や不法滞在のために治療が受けられず、チャリティ団体に救済される人もある。国民健康保険や介護保険もなく、文化的背景も異なるアメリカで日本人が高齢期を迎えるためには、自己の経済・体力・精神的な準備が必要である。しかしここには、日本人高齢者に対応したサービスやサポートを専門的に行う機関はない。ロサンジェルス、シアトル、シカゴなどの地域では第二次大戦後、日系コミュニティが形成され、老人ホームやシニアセンターなどのセイフティーネット機能が存在している。金融の街ニューヨークには、ビジネスを目的とした個人や駐在員、学生がばらばらに集まってきたため、相互扶助の役割をもつコミュニティは形成されてこなかった。日本は長寿大国で手厚い高齢者政策があるが、いったん“自己責任の国”アメリカに渡れば、高齢者にとってそこは“無法地帯”である。

しかし、このニューヨークにもちょっとしたソーシャルイノベーションがあった。2005年5月、ニューヨーク日系人会の傘下に「高齢者問題協議会」(以下、協議会)が設置されたのである。この協議会は、高齢者の医療や介護の問題への対応策を議論する機関で、ニューヨーク総領事館、とくに大使(ニューヨーク総領事館では総領事を特別に大使と呼んでいる)が立ち上げに一役買って出た。領事館なら日本人コミュニティに直接話をもちかけることができることを目論んで、私を含む仲間たちは、2004年に私が実施した高齢者調査と、現在の日本人高齢者の問題に関する現状についてプレゼンテーションを行い、協議会の必要性を訴えた。同席した領事たちの反応は積極的であったが、領事館内でのコンセンサスを要するのに時間がかかったのか、コミュニティメンバーを集めての初回会議が開催されるまで4ヶ月が経過した。領事館としては、日本人でなくアメリカ国籍を持つ日系人の人々まで救済する必要があるかという点も課題となっていたようだ。しかし、一旦、領事館が動き出すと、各団体企業がまとまり、協議会発足へと急速に進んでいった。協議会メンバーは領事、医師、カウンセラー、商工会やビジネス団体のトップなど約30人。運営資金を工面するため大使自ら奔走し、2005年に米国永住権を取得しニュージャージーに暮らす加山雄三氏が10月にカーネギーホールでコンサートを行った際の収益2万ドルを寄付してくれた。

とりあえず順風満帆に見える協議会であるが、これからが正念場。今年末には、まれに見る政策起業家的感覚を持った現大使が任期を迎え、現領事たちも次々に帰国してしまう。初年度は、政府機関にリードしてもらうという日本人にとっては心地よいスタイルであったが、今後はそうはいかないであろう。2006年3月末までに高齢者の意識調査を終了し、その結果分析により、日本人向け高齢者情報センターやシニアセンター設立など、協議会の今後の事業計画が決定される。その際、協議会として重要なことは、高齢者は協議会から一方的に支援を受けるのではなく、幸せな高齢期を迎えるためには、高齢者自身も協議会を通して学び、協働し、自立した生活ができるよう努力する必要があることを理解してもらう役割を担っていることである。
posted by CAC at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ソーシャルイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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